続きです。表現があるので微裏です、閲覧にはご注意下さい!
生徒会室を出て、ユーリは一人、帰宅の途についた。
ただし、向かうのは自宅ではなく、フレンが一人暮らしをするアパートだ。
フレンとこういう関係になってから、ユーリはよくフレンの部屋へ行くようになっていた。
幼馴染みで友人だし、子供の頃にフレンがまだ家族と共に暮らしていた時は、家に遊びに行くことなど珍しくなかった。
だが、フレンが引っ越して行ってから高校の入学式で再会するまで、今思うと不思議なほど、やり取りがなかった。
手紙も最初の数回だった気がするし、電話に至ってはかけた覚えがない。
大体、引っ越して行った時期すら記憶は曖昧だった。
だというのに、一目でそれがフレンだとわかった。
明るい金髪も、晴れた日の青空みたいな瞳も、昔のままだと思った。
フレンのほうも同様だったらしく、ユーリの姿に驚きながらも、とても嬉しそうだったのを覚えている。
以来ずっと友人として付き合ってきて、今は『恋人』として『付き合って』いる。そのこと自体は構わないのだが、こういう関係になってから、ユーリはフレンの『嗜好』に驚かされるばかりだった。
普段の生真面目で品行方正な姿からは全く想像がつかないが、フレンは一度欲情すると歯止めがきかないらしく、する場所を選ばない。
立入禁止の屋上でサボっているのを見つかった時など、生徒会長としてはむしろユーリを連れ戻す立場にあるはずなのだが、そのまま行為に及んでしまうことが殆どだ。
他にもトイレや生徒会室など、校内でされてしまうことは少なくない。
フレンに抱かれるのはむしろ嬉しいが、ユーリはもっと落ち着ける場所がよかった。
いつ誰が来るかわからない状況で、周囲を窺いながらというのがどうにも抵抗があるのだ。
今日だって、さっさと生徒会室を出てしまわなければどうなっていたことか。
鍵を寄越せと言ったのも、そうすればフレンにわかってもらえると思ったからだった。
…まあ、意図は一応、伝わったようではあるが。
「なんだってあんな、がっつくかな…」
思わずため息を零して俯くと、足元のアスファルトに黒いシミがぽつぽつと落ちてきた。
「うわ、マジかよ」
振り仰いだ空はいつの間にか真っ暗で、一瞬のうちに大粒の雨がユーリの身体を叩きつけてきた。
フレンの家まではまだ距離がある。
とりあえず、雨を凌ぐ場所を探してユーリは辺りを見回した。
(確か、この先に公園が…)
鞄で頭を庇いながら、ユーリは記憶の中の公園へと走り出していた。
「うわ…すごいな、これは…」
ようやく作業を終えて窓を見ると、激しい雨がガラスを叩き、外の様子もわからないほどだ。
いつから降っていたのだろうか。作業に集中していて、全く気付かなかった。
「ユーリ、傘なんか持ってたか…?」
時計を見ると、あれから一時間以上経っている。
いくらなんでも、とっくに部屋に着いているだろう。フレンの部屋は、学校から歩いて15分ほどしかかからない。
(だから携帯持ってくれ、って言ってるのに…)
ユーリは携帯を持っていなかった。面倒臭いとかどうせ使わないとか言うが、フレンとしては何かあってもすぐに連絡を取れないことが、不満であり、不安だった。
今だって、携帯があればすぐにユーリに電話して、遅くなってごめん、と言えるのに。
とにかく、早く帰ろう。
フレンは手早く片付けを済ますと、鞄から折り畳み傘を取り出し、大急ぎで学校を飛び出した。
「え…?」
自宅に着いたフレンは、入り口で立ち尽くしていた。
いくらチャイムを鳴らしてドアを叩いても、何の反応も返ってこない。
鍵もかかったままだ。建物の外から自室の窓側に回ってみたが、電気も点いていない。
(なんで…?まだ、帰ってないのか?)
鍵はユーリが持っている。大家が一緒にいるアパートではないから、このままでは部屋に入れない。
だがそんなことより、ユーリは何故帰っていないのか。
どこで何をしているのか、まさか何かあったのか。
そう考えるとたまらなく不安になって、フレンは駆け出していた。
とにかく、辺りを捜してみよう。もしかしたら途中で雨に降られて、どこかで雨宿りでもしているのかもしれない。
そう思って近所の店先やコンビニ、たまに寄るファミレス等を覗いて回り、30分ほどかかってようやくその姿を見つけたのは、自宅から少し離れた場所にある公園だった。
「ユーリ!!」
東屋のベンチに腰掛けていたユーリが、フレンを振り返った。
「…おー。よくわかったな、ここ」
「わかったっていうか、捜したよ…!」
傘の水滴を払いながらユーリの隣に腰掛け、フレンは安堵のため息を吐いた。
ユーリは制服のブレザーを脱いでおり、生乾きのシャツから透ける素肌がなんとも言えず艶っぽく見える。
まとめていた髪も下ろされ、毛先はまだ濡れて束になっていた。
「いや、悪かったな。すぐ止むかと思ったんだけど」
「ずっとここにいたのか?」
「んー…一時間ぐらいだな。なんかもう、濡れても帰ったほうがよかったぜ…」
「一時間!?…あれ?学校出てすぐ…じゃないよな」
「あー、なんか考え事しながらだらだら歩いてたら降ってきてさ。この公園見つけるのにもちょっとかかったからな」
「考え事?」
「…大したことじゃねえよ」
フレンの性癖について考えていたなど、言いたくもない。
顔を逸らしたユーリだったが、フレンがそれを見逃すはずがなかった。
ユーリの肩を掴んで自分の方を向かせ、顔を覗き込んでくる。
「ユーリ?考え事って何?」
「だから、何でもねえって。何でもかんでもおまえに言わなきゃいけねえのか、オレ」
「…どうしても言いたくないなら、仕方ないけど…」
そのまま胸元に抱き寄せられて、ユーリは狼狽した。
「ちょっ、やめろって!!」
「どうして?…心配したんだよ」
「ガキじゃねえんだから……そんなことより、離せよ!」
「…なんで」
「何で、って、こんなとこ誰かに見られたらどうすんだよ!!」
フレンは辺りを見渡してみた。
相変わらず雨は激しく降り続いており、東屋の屋根を叩く音もかなりのものだ。
その東屋は公園の中央から少し寄ったところにあり、道路からは離れているため中はよく見えないと思われた。
何より東屋そのものも1メートルほどの高さの壁で囲まれている。
「…大丈夫、多分見えないよ」
「多分、じゃねえよ!なあ…もう帰ろうぜ。迎えに来てくれたんだろ?」
「ユーリ、今日は随分と僕の部屋に来たがるね。どうかしたの?」
「っ…」
まずい、とユーリは思った。
そもそも今日は、フレンの部屋で『ゆっくり』したかったのだ。
だが今それを言ったら、確実に自分の望まない状況になることは容易に想像できた。
恐る恐るフレンの表情を窺うと、爽やかな笑顔が自分を見下ろしていた。
「…わかってんだろおまえ…!だからもう、帰っ……!!」
さらに強く抱き締められてキスをされ、あっという間にユーリはベンチに押し倒されていた。
「んン、んーッッ!!」
フレンの背中をバシバシと叩くが、フレンは全く動じない。
唇を離すと不機嫌そうな瞳で見下ろしてくる。
「…痛い。少しは加減しなよ」
「うるせえ!加減ってんなら、そっちこそちったあ抑えろ!!」
「抑える?…何を?」
言いながらズボンのベルトに手をかける気配に、ユーリの顔から血の気が引く。
「やめっっ…!おまえまさか、マジでこんなとこでヤる気かよ!?」
「だってユーリ、そのつもりだったんだろう?」
「だから、帰っ……!」
「だいぶ待たせたみたいだし……そんないやらしい格好見せられたら、我慢できない」
シャツの上から胸を撫で回され、ユーリが身を捩る。
「んッ…!やらしっ…て、なに、が……ッ」
「……透けてる」
「はあ!?…っちょ、やめ…!」
「そういえば…外でしたこと、ないよね。『アオカン』って言うんだっけ?こういうの」
「……………!!」
爽やかな笑顔でとんでもない単語を口走るフレンの姿に、ユーリはさっさと帰らなかったことを激しく後悔した。
「……信じらんねー…マジで最後までヤりやがって……!!」
固い木のベンチに擦られた背中と、処理もままならない後ろがヒリヒリと痛い。
結局ユーリはフレンにされるがままに犯されてしまい、あまりの倦怠感にぐったりとうなだれていた。
未だ激しく雨は降り続いており、誰かに見られた可能性は殆どないだろう。
それでも最中は気が気でなく、声を抑えるのに必死で、身体にも余計な力がかかりっぱなしだった。
精神的にも肉体的にも、異常に疲れていた。
対してフレンは非常に満ち足りた笑顔をユーリに向けていて、その様子に心底腹が立ったユーリは、気が付くと鞄でフレンの頭を力一杯はたき倒していた。
「痛あ!?何するんだいきなり!!」
涙目で睨みつけてくるフレンの頬をさらにつねって引っ張る。
「いっ……!!」
「なんでおまえはそうなんだよ!?あっちこっちで盛ってんじゃねえ!!」
フレンはユーリの手首を掴んで引き剥がし、つねられた頬をさすりながら拗ねたように唇を尖らせる。
「なんでって…そんなの、決まってるよ」
「…なんだよ」
「ユーリが可愛いから」
「もういっぺん殴られたいか…?」
「それは嫌だな」
掴んだ手首を引いて、フレンはユーリの身体を抱き寄せると、しっかりと腕の中に閉じ込めてしまった。
ユーリが動きを止めて固まり、赤くなった耳が髪の隙間から覗く。
「だから、やめろって…!」
「部屋での君も好きだけど…他のところだとすごく恥ずかしがるから、それが可愛いんだ」
「っ…の、……!!」
「ほら、それが可愛い」
「るせえ!可愛い可愛い連呼すんな!!オレは部屋のがいいんだよ!!」
「…ふうん?」
何やら不穏な空気を感じて、ユーリの身体がなお一層固くなる。
「じゃあ、早く帰って続き、しようか。…あ、その前にシャワー浴びないとね。身体、だいぶ冷えてしまったし」
「続き、って……」
「ほら、早く行こう?鍵は君が持ってるんだし、一緒に来てくれないと僕も困る」
「い…いや、オレもう、今日は疲れて」
「部屋がいいんだろう?あ、傘は一つしかないからもっとくっつかないと」
「おい……!」
立ち上がったフレンがユーリの手を引き、その腰に腕を回す。
「そういえば、相合い傘も初めてだね」
「…もう、勘弁してくれ…!!」
肩を半分ずつ雨に濡らしながら、ぴったりくっついて歩く姿が周りにどう映るのか。
フレンの部屋に着くまで、知り合いに見つからないことを祈るしかないユーリだった。
ーーーーー
終わり