858番地、ジャックの隠れ家の一つ。
長らく主の帰らなかった家に、金髪の新しい主が居着いてから、もう1ヶ月程経っていた。
「・・・ヨォ相棒。」
ゴンゴン、と分厚い金属を叩く音がして、ジャックがドアを開けた。
「どうぞ・・・お入りください、散らかってますが・・・」
メサイアは、明るい金髪を梳かす手を止めて迎えに出る。
ジャックは意地悪そうに笑って言った。
「散らかすなよ、元々は俺の家なんだぜ。」
「き、決まり文句でしょう!」
「ははは、わかってるって。」
慌てて弁解すれば、楽しそうな笑い声で返される。
やはり、からかわれているのだろうか。
「・・・これから朝食にしようと思っていたんです。」
「うん?お前、今起きたのか。」
「・・・貴方が急に来るだなんて言ったから。」
どうしようかと思ったら、眠れなかったんです。
少しふてくされたように言うと、ジャックは困ったように言い返した。
「なんだ、オマエ結構可愛いトコあんだな。」
「・・・どういうことです。」
「そういうことだよ。」
ガチャガチャと食器を準備しながら、ふとそれらが2組ずつあることを思い出した。
「・・・うん?どうした。」
ジャックが訊く。
メサイアは首を軽く振って答えた。
「・・・いえ、何でもありません。」
・・・だから、最初はジャックが一緒に住んでくれるのかと期待してしまったのですが。
「・・・敬語とは、嫌に他人行儀だな、オイ。」
「・・・他人行儀?そうなのですか?」
苦笑するジャックとは目線を合わせずに、卵をフライパンで焼く。
「・・・これが正しい話し方なのだと思っています。」
「・・・まぁ、間違っちゃいねぇが・・・。」
誰か、ジャックと一緒に住んでいた人がいたのだろう。
できたオムレツを皿に放り出して、簡単なサラダを作りに取り掛かった。
トースターに入れたパンは・・・もう少し焼き色が欲しい所ですね。
「オイ。」
「何ですか。」
「何怒ってんだ?」
ジャックがカウンターに座って訊く。
「怒ってないです。」
「怒ってんだろ。」
「・・・・・・。」
メサイアは黙ってレタスを千切る。
その様子を眺めながら、ジャックはのんびりと答えを待つ。
「・・・鏡に、」
「うん・・・?」
「鏡に、口紅で伝言が有りましたよ。」
「!・・・」
ジャックはバツの悪そうな顔をして席を立った。
部屋を出ようとしたジャックに、メサイアは言った。
「消しました。・・・髪を整えるのに邪魔だったので。」
「そ、そうか。」
「あと、ベッドにあった長い髪の毛も邪魔なので捨てました。」
「・・・・・・。」
ジャックは苦い顔をしている。
メサイアはサラダを混ぜながら少し振り返った。
「・・・ジャック、
『さよなら、もう待たないわ』
・・・だそうですよ。・・・伝言。」
「・・・そうか。」
ジャックは再びカウンターに座る。
ん、トースターは止まっていたようですね。通りで焼き色が付かない訳です。
トースターのダイヤルを捻りながら、ジャックに背を向けたまま訊く。
「一緒に住んでいたのですか?」
「あー・・・まぁな・・・」
「恋人ですか?」
「あー・・・まぁ、そんなもん・・・」
ジャックは言葉を濁した。
何だかとても腹が立つ。
でも私自身、どうしてこんなに腹が立つのか分からない。
サラダをボウルごと、乱暴に皿の隣に置いた。
ごん、という鈍い振動が手に伝わると同時に、温かい水が手に落ちる。
「・・・?」
サラダを作るのに温水は使っていないのですが。
メサイアが驚いて顔を上げると、更に驚いた顔をしたジャックと目が合った。
「ちょっ・・・オマエ、そんな、泣くこたぁ・・・!」
珍しく狼狽するジャックの姿は、すぐにぼやけて見えなくなった。
目をどんなに擦っても、やはり視界は晴れない。
「・・・私はどうして泣いているのでしょうか。」
「・・・俺が知るか・・・。」
ジャックは困った顔をしている。
早く涙を止めないと、ジャックに呆れられてしまいますね・・・
「ジャック、」
「うん?」
「涙の止め方を教えてください。」
「・・・あー・・・。」
どうやら、彼も止め方を知らないようです。
あまり泣かないのでしょう。
ジャックは答えられないまま、メサイアの隣に来た。
そのままゆっくりと抱きしめて答える。
「・・・止め方は、知らないが・・・。泣きたい時には泣きたいだけ泣けばいいと俺は思う。」
今は戦場じゃない、時間はあるしな。
そう言ってジャックは金髪を優しく撫でた。
「・・・呆れませんか。」
「別に呆れねぇよ。」
訊けば、こつん、と頭を小突かれた。
「てか、原因は俺にあるみたいだしな・・・すまん。」
「・・・いえ・・・あ、じゃあ、1つだけ。」
「・・・アン?」
調子に乗って、と怒られてしまうかもしれませんけど・・・
「・・・一緒に住んでください。」
「・・・いや、それは・・・」
「恋人じゃなければ一緒に住めないのなら、恋人になりましょう。」
「イヤ、オイ!」
恋人の意味分かってんのか、オマエ・・・
と呟いて、ジャックはため息を吐く。
「嫌でしょうか。」
ジャックの見つめる先で、金色の瞳がまた滲んだ。
「私は、・・・私は、ジャックの事が好きです。だから、貴方が嫌なら、無理は言いません・・・。私は・・・っ・・・。」
更に言い募ろうとするメサイアの唇を、ジャックはキスで塞いだ。
「・・・今は、無理だ。」
「・・・・・・。」
「これからお互いそれぞれが敵対組織に入り込もうってのに、一緒に住むのは難しいだろ。」
ジャックは言って、またカウンターに座る。
「だから、とりあえずはこの戦いが終わるまで待て。
戦いが終わったら一緒に住もうぜ、相棒。」
「・・・・・・。」
ジャックが言うが、メサイアは金色の目を瞬かせて黙っている。
「・・・どうしたんだ、オマエ・・・」
不審に思ったジャックが訊ねる。と、慌てたように口を開いた。
「ジ、ジャック今っ・・・今のはっ・・・」
「アン?一緒に住んでもいい、って話だが・・・」
「・・・違っ・・・いえ、それは嬉しいんですけどっ、その前っ・・・」
ジャックは首を傾げて・・・やがて、あぁ。と思い出したように訊く。
「・・・キスした事か?・・・嫌だったか?」
「嫌じゃありません大丈夫ですっ!」
「・・・・・・そうか?」
「ただっ・・・ジャックが、嫌じゃなかったかと・・・」
コイツめ、そんな事を気にしていたのか。
ジャックは少し苦笑して言った。
「全く、嫌じゃなかったな。」
「そ、そうですか・・・」
ほっと胸をなで下ろすメサイアを見て、ジャックは意地悪そうに笑う。
「あぁ、ただ・・・」
「た、ただ・・・?」
「キスだけで真っ赤になるようなウブな恋人を持つことになるとは思ってもみなかったな。」
「なっ・・・!」
メサイアは再び真っ赤になって言葉をなくしている。
「ははは、・・・まぁ、せめてロミオとジュリエットにならないようにしようぜ。」
「と・・・当然です!約束ですからね。」
「そうだな・・・約束だ。」
ジャックはカウンターに身を乗り出してきたその額にキスをして。
三度赤面しているメサイアをそっと抱きしめた。
あとがき
勢い余って12扉ー!
大好きだTwelvedoors!むしろジャック!
婿になれ!(メサの。)
二次創作・・・いいのかなぁ・・・
ダメなんかなぁ・・・
また書きたいなー・・・(爆)