『まつかぜ!まつかぜしゅうのおしごとについていくってほんとう!?』
『よくしってるな…。……きょうから、ちちうえのしごとについていって、いろいろべんきょうするんだ。おれは、ちちうえのあとをつぐんだから』
『そっか……。きをつけてね……』
『…………だいじょうぶだよ。ちゃんとおまえのところにかえってくる。…………やくそくだ』
『…うん……!』
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「…………。随分懐かしい夢を見たわね…。……まつかぜは、今頃どこにいるのかしら…」
「くるっぽー」
「!伝書鳩…。まつかぜから……?」
―そちらに癒されていないモンスターの群れが向かっていると情報が入った。急ぎ、避難しろ。―
「癒されてない、モンスターの群れ…!?…っく、父さん!まつかぜから伝書鳩が……!!」
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「(間に合うだろうか……。主も急いでくれているとはいえ、まだ少し距離がある…。無事だといいが……)」
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「まずいな、まだボスの姿はないとはいえ、規格外レベルがゴロゴロいやがる…!○○!そっちはどうだ!?」
「こっちも同じ!父さんだけじゃ、癒しきれないよ!」
「今母さんが松風衆に援軍を頼みに行ってる!もう少し踏ん張れ!!」
「うん!!」
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「ついた…!」
「みゅ!?大変です!もう村にモンスターが雪崩込んでるのですよ〜!!」
「…!一部の村人が応戦してるみたいだ……!まつかぜさん、避難の連絡はしたんですよね!?」
「……あいつ………!!」
「まつかぜさん!?」
「一人じゃ危険なのですよ〜!!」
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「はあっ!!…っ父さん、そっち行った!」
「おう!癒すのは任せろ!!」
「ギャアアアァァ!!」
「!!群れのボス!?しまっ…」
「……○○!!」
「ひゃあっ!?」
「…っく…………大丈夫か……?」
「まつ、かぜ…………?」
「……今は、ボスを癒そう。オレの主も来ているから、大丈夫だ」
「…っ、うん……!」
「まつかぜさん!大丈夫ですか!?」
「主!今はボスを癒すのが先だ!オレの事は構うな!!」
「あ、ああ…!わかった!」
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「ふう…。あらかた癒したな。この村に癒術師がいて良かった…」
「兄さん、若いのにやるなあ!将来有望だ!」
「あの…、いや、……ありがとうございます………」
「ところで、まつかぜさんはどうしたのです?さっきの女の人も……」
「ああ…、ま、彼のことは娘に任せておけば大丈夫だ。……邪魔しちゃ悪いしな…?」
「(ピーン!)そういうことなのですね!」
「は?何が?」
「鈍いのですよ〜…」
「ははは!さて、俺は被害の確認をしないとな。…兄さん、手伝ってくれるか?」
「え?あ、はい…」
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「っの、バカ!前線に出るなって言ったじゃないの!!」
「………………」
「まったく…私を庇って怪我するなんて……」
「……お前こそ、何故避難しなかった?」
「村守なんだから当然でしょ!……私が守らないと……!」
「…………怪我はないか?」
「私は平気!かすり傷程度よ。…私を誰だと思ってるのよ。村最強の戦い手よ?…………自称だけど」
「………………」
「はい、手当ておしまい。でも肩に結構深い傷だから、なるべく動かさないこと。お風呂も禁止!…体拭くぐらいはしてあげるわ……」
「………………」
「まつかぜ?」
「どこを怪我した?」
「え?脚とか腕とか…、かすっただけだけど」
「………お前が傷つくのは、嫌だ…………。例え、かすり傷でも……」
「な…っ」
「………………守れなくて、すまない…」
「…………バカ。……なによそれ、ずるいじゃないの……」
「………………」
「私は、まつかぜの帰る場所を守りたかっただけ。逃げるなんてできないよ」
「………………オレの帰る場所……」
「約束、したじゃないの」
「…………そんなことで……」
「な…、そんなことって何よ!バカ!もう知らない!!……夕飯まで絶対安静だからね!(スパーン!!)」
「………………オレの帰る場所……か」
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「…………はあ…。私もまだまだね……。もっと強くならなくちゃ。…まつかぜの帰る場所、私が絶対守るんだから……!」
「あ、さっきの…」
「!君は……、まつかぜの主くん。いつもまつかぜがお世話になってます。それに、さっきはありがとう。父さんと私、村にいる松風衆だけじゃ対処しきれなかった。本当に助かったわ」
「いえ…。あの、まつかぜさんは……?」
「…肩に、深い傷を。しばらくは安静にしてないとダメね……」
「そうですか……」
「まったく…。あいつ、耐久力紙のくせに、無茶するんだから……!」
「それは、あなたのことが大切だからだと思うのですよ〜」
「あら…、変わったペットね……」
「みゅ!?ペ、ペットじゃないのですよ!メルクなのですよ!」
「あ、そうなの?ごめんね。じゃあ、こっちのダイフクみたいながペットかしら?」
「キュ!?キュー!キュー!!」
「あ、いや…。こいつはトト。相棒…ってやつ、かな……」
「キュ!」
「そう…。それは失礼。私は○○。この村の村守で、まつかぜの幼なじみよ」
「まつかぜさんの…幼なじみ……」
「成る程、納得がいった」
「…?何が?」
「いや、前に行った町で、まつかぜさんが…」
「だ、ダメです!!それ以上は言っちゃダメなのですよ〜!!」
「もがっ!?」
「(不器用なまつかぜさんなりのサプライズなのですよ!あのことは秘密にするのです!!)」
「(よくわからんが……、…わかった)」
「まつかぜが、何?……まさか、何かやらかしたの!?」
「へ!?あ、いえ!!なんでもないです!!」
「なのです!!あっ、○○さん!松風衆の方にも、まつかぜさんの容態を報せた方が!」
「ああ、そうね…。行ってくるわ」
「ほっ……」
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「オレの、帰る場所……」
「(シュタッ)頭!ご無事で!?」
「問題ない。○○の手当てはいつも的確だ」
「…そうですか……。大事なくて良かったです……。頭を失ったら、我々は……」
「村にオレがいない間は○○のお母上に従うよう、言ってあるだろう。……それが、ずっとになるだけだ」
「頭……。……そんなことを言うと、お嬢に怒られますよ」
「……そうだな…………。あいつは、いつもそうだ……」
「…………。頭の無事も確認できましたし、私は、戻ります。日も落ちてきました。お体を冷やさないよう……」
「ああ……」
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「まつかぜ、大人しくしてた?夕飯よ」
「……すまない」
「謝るぐらいなら最初から怪我しないでよ、バカ。…ご飯の後は体拭くからね」
「ああ……」
「…………はい、おじや。熱いから気をつけて」
「ん……。…………(もぐ)…………久しぶりに食うが…美味いな……」
「おじやは得意だからね!」
「(もぐもぐ)」
「………………」
「(もぐもぐ)」
「ふふ…」
「む……?どうした……」
「なんでもないよ。…ちょっと、嬉しいだけ」
「……そうか……(もぐ)」
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「……ごちそうさま」
「はい。じゃあ私は食器洗って、タオル用意してくるから。……あんたは大人しくしてるのよ」
「ああ……」
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「…………土産、いつ渡そうか……………。…喜んで……くれるだろうか…………」
「お待たせ。ちゃんと大人しくしてた?」
「ああ……」
「じゃあ、ほら。脱いで」
「…………恥ずかしげもなくよくそんなことを…」
「っな…!バカ!!病人相手にそんな気起きるわけないでしょ!!」
「冗談だ。(上だけ脱ぐ)…これでいいか?」
「…………うん…。じゃあ拭くよ」
「ああ…………」
「…………(背中、広い…)」
「………………」
「……………傷、増えたね……」
「……そうか?……自分では見えないからな…」
「薬、塗るよ」
「ああ……。……っ…!」
「染みるけど、我慢なさい」
「……っ、ああ…………」
「………………(ぬりぬり)」
「……○○」
「んー?何?痛い?」
「いや…、その……。…………これを」
「…これは…?」
「…………前に行った町で買った。……この辺りには咲かない花のしおりだ」
「…!」
「………………いつも、心配かけて悪い」
「……お土産ってわけね…。……ありがと。丁度しおりが欲しかったのよ。………何でわかっちゃうんだろうね………。幼なじみって、言葉以上にすごいものなのかもね。ふふ」
「…………オレは、幼なじみだから、という訳ではないと思うがな………」
「………どういうことよ(包帯巻き巻き)」
「…………………通じているんだろう……」
「………何が?」
「………………、まだ、早い、か…」
「…?」
「いや…なんでもない。………、村守、これからも頼むぞ」
「………任せて!」
「…………なあ、約束、覚えてるか………?」
「……覚えてるわよ。……夢に見るくらい鮮明にね………」
「……あの時、オレが言ったのは……、この村のことではない……」
「え…?」
「いや、この村のことも確かに含まれるのだが………。それ以上に………。……オレが帰ると言ったのは……、オレの、帰る場所は………」
「…………」
「………お前だ………」
「………!…………っ、バカ……(後ろからぎゅ)」
「………………(手を重ねる)」
「………………。怪我、しないでよね……。面倒みるの、大変なんだから………………」
「………ああ」
「約束ね」
「……努力する」
「……約束はしてくれないんだ………」
「悪い。仕事柄、怪我は付き物だからな……。だが、一度した約束は必ず守る。……お前の元に必ず帰る……」
「………ん」
約束。
遠い日の思い出。