NHKは1/8、東京・渋谷の同局で会見を行い、2022年に放送される大河ドラマ第61作は、鎌倉幕府の第2代執権・北条義時を主人公とした『鎌倉殿の13人』、主演は俳優の小栗旬、脚本はヒットメーカーの三谷幸喜氏に決まったと発表した。旬君は大河初主演。三谷氏は04年[新選組!]、16年[真田丸]に続く6年ぶり3回目の大河脚本に挑む。
主演の旬君は現在、米ロサンゼルスに滞在中で、この日の会見は欠席。異例の主演俳優不在での大河ドラマの会見となった。
オンエアの2年前の発表であり、撮影は来年6月頃からとなることを考え、「小栗が帰国してからの発表でも良かったのは?」との質問も飛んだが、制作統括の清水拓哉氏は、今後、旬君を交えた会見をすることにも言及し、「ぜひサプライズとともに早めですけど、発表した」とこの時期の発表にこだわったことを明かした。
会見は16時から始まり、登壇した三谷氏は「大変長らくお待たせいたしました。2度あることは3度ある、三谷幸喜です。カルロス・ゴーンの会見に先立つこと6時間。楽しんでいってください。新しい大河ドラマを作りたい。今までこんな大河ドラマ絶対なかったというものを作りたかった」とあいさつした。旬君に電話した際には「互いの代表作にしよう」と話したという。
旬君は大河には1995年[八代将軍吉宗]、96年[秀吉]、00年[葵 徳川三代]、05年[義経]、09年[天地人]、13年[八重の桜]、18年[西郷どん]に出演している。
本作は、華やかな源平合戦、その後の鎌倉幕府誕生を背景に、源頼朝にすべてを学び、武士の世を盤石にした男・二代執権・北条義時を主人公にした物語。野心とは無縁だった若者がいかにして武士の頂点に上り詰めたのか。そして、新都・鎌倉を舞台に繰り広げられるパワーゲームで義時はどんなカードを切っていくのか。「新しい大河を作りたい」と意気込む三谷氏が自信を持って贈る予測不能なエンターテインメントとなる。
今回の発表に「早く発表したくてうずうずしてました」と心躍らせた清水氏。「僕自身が大河ドラマ大好きで、これで大河ドラマに関わるのは7本目になる。『真田丸』でもすごく楽しく仕事ができて、三谷さんといい経験をさせせてもらったという中で、ぜひもう1回、三谷さんと仕事させてもらいたいなと思った」とあくまでも三谷氏ありきの企画をであることを明かした。その中で「次に大河をやるなら」と考えていく中で三谷氏に相談したといい、「鎌倉いいんじゃないの?(北条)義時で面白いんじゃないですか?と三谷さんがおっしゃって…。(大河ドラマで)源平時代をしばらくやっていなかったので、“源平いいな”と思っていた。源平から鎌倉の時代はものすごく好きな時代で、三谷さんがおっしゃった時にいいな!と思って、“ぜひやりませんか?”という感じです。三谷さんはお忙しい方なので、なかなかスケジュールを押さえることができないので、ちょっと先ですが2022年にお願いした」と告白。
「『新撰組!』でも助監督について、ドラマの面白さを三谷さんに教えていただいた。そのあとは『真田丸』でもプロデューサーとしてかかわった。ぜひまた三谷さんともう1回大河をやりたいと。それぐらい『真田丸』は大河ドラマで面白いものを作るという意味で手ごたえを感じた。こういうやり方をしていけば面白いものができるんだなと。同じことをやるつもりはないが、これはこれで新しい取り組み、新しい工夫もしていく。歴史劇、大河ドラマの向き合い方をバージョンアップして、三谷さんとだったらそれができるんじゃないか(思う)」と力を込めた。加えて、主演の旬君の名を挙げたのも三谷氏だったことを明かし、清水氏も「文句ない」と太鼓判を押していた。
また清水氏は大河ドラマ61作目となるが、タイトル洋数字が入るのは今回が初めて。「漢数字ではなく、あえて洋数字にしているのは、ある種の三谷さんらしさというか、いわゆる時代劇というのとも違う、三谷さん流の面白さが入っているかなと思う」とその意図を説明。「(三谷氏は)群像劇の名手なので、パッと見て、三谷さんのお得意の世界が広がるんだろうなと期待が広がるんじゃないかと。すごくいいタイトルだと思う」と自信を見せた。
タイトルの「鎌倉殿」とは鎌倉幕府将軍のこと。源頼朝の天下取りは13人の家臣団が支えていた。頼朝が絶頂のときに謎の死を遂げた後、13人は激しい内部抗争を繰り広げる。やがて、北条政子の弟で、13人中もっとも若かった北条義時(小栗旬)が最後まで生き残り、権力を手中に収める姿を描く。
清水氏は主演の旬君を提案したのは三谷氏であることを明かし、「(小栗には)大河ドラマに何本も出ていただいて、それぞれ魅力的な役を演じてくださっている。ある種、満を持してじゃないですけど、大河ドラマも61作目。そのブランドはしっかり表現していきたいし、大事にしていきたい。それを背負える役者さんって誰なんだろうと(考えた)。それは、小栗さんはスケールの大きさ、これまでの大河で何人も演じてこられたので文句ない」と力を込めた。
内容については「決断」がテーマになるといい、「義時はポイント、ポイントで決断をしていきます。やらなきゃやられる。そのために非情な決断も必要。うまくいくときがあれば、悪いときもあります。決断をするときがドラマになる。いろいろなポイントで義時は決断を下していく。その中で、やらなければやられるというのが中世のリアル。そこで自分の家族だったり、自分の身を守るために非情な決断もしていく。決断をしてうまくいくこともあれば、失敗することもある。その僕らは日頃やっていることと同じ。いろいろな決断をしないといけないときにドラマが生まれる。その決断の内容がものすごく重い。相手をだまして裏切って、滅ぼしてということは義時の場合はある。そういうことを描くのが歴史劇の醍醐味。それでドラマの強度が強くなる。そこが見せ場になるかなと思う」と語り、[真田丸]などを経て「こういうやり方をすれば手応えがあるなどと、思うこともあり、新しい取り組みをしていきたい」と意気込みを語った。
現時点で、三谷氏は脚本を担当することのみ発表されたが、「三谷さん自身が演出などをする機会があるか」と聞かれると、清水氏は「(三谷さんに)聞いてみます」といい、「今作はただの時代劇とは違う。三谷さん流の面白さが入っている。三谷さんは群像劇の名手なので、期待したいと思います」と話した。
会見に一人登壇した三谷氏は旬君の主演について「大賛成なんですけど一緒に発表することはどうかな?」と首をかしげつつも歓迎。旬君と初めて仕事をしたのはドラマ[わが家の歴史;'10、フジテレビ系]で「高倉健さんの若い頃をやってもらった。実際は顔は似ていないのに、健さんにしか見えなかった。この人は気持ちから入る人で、心で演じたから高倉健に見えた。この人とまた、ご一緒したいと思いました」と、その演技力を絶賛。
「小栗さん主演の大河は、大河ファンの僕が見たかった。だからすごく楽しみです。大河ドラマも何本か出てるのを拝見して、どの役も役をつかむのが上手で、芝居にウソがない。ただただかっこいい、強く、優しいヒーローだけではない人間のズルい部分。酸いも甘いも噛み砕いた男を演ってもらうのが楽しみです」と期待を込めた。
三谷氏はタイトルについて、「新しい大河ドラマを作りたいということで、今までなかったようなものにしようと思い、このタイトルになりました」と明かした。「鎌倉殿は将軍のことで、源頼朝が死んだ後、2代目の頼家が、『親父を超えるぞ』と頑張りすぎて暴走して、家臣たちがそれを止めるために合議制ですべてを決めていく。日本の歴史上、合議制で初めて政治が動いた瞬間。それが鎌倉殿の13人。僕好みの設定」と話すと、「このなかで一番若かった北条義時が、勢力争いのなか、最後まで残り、鎌倉幕府を引っ張っていく最高権力者になる。そこまでを描いていきたい」と説明した。
また、「歴史に名を残した人よりも敗れ去った人にシンパシーを感じる」という三谷氏。「敗者の話」だったという過去の2作品同様、歴史上は勝者である義時。旬君が演じる北条義時という人物について、三谷氏は「めちゃくちゃダーク。こんなダークの主人公が日曜の夜8時に描いていいのかと(笑)。そんなダークな主人公を明るく楽しく描いていきたい」と笑った。さらに「これまで手がけた大河は2つとも敗者の話。今回の北条義時は歴史上では勝者なんです。ただ本当に勝ち組だったのか?と考えると、犠牲にしたものも多い。僕の考える義時は孤独な男で、もしかしたら絶望の中で死んでいったのかもしれない。そう思うと、共感を持って義時を描けると思います」と語る。平安時代末期から鎌倉時代の初期を舞台にしており、「この時代って本当に面白い。面白くなる要素が全部詰め込まれてるんです。僕の頭では想像付かないようなドラマが展開していて、すごくドラマティック。それを描くことができるのは脚本家冥利に尽きる」と続けた。
三谷氏は[真田丸]脱稿後のインタビューで「僕は大河ドラマが本当に大好きで、大河を見て育った部分が凄くあります。まだまだ僕なりの大河への恩返しが足りていないような気がするので、機会があればやってみたいと思いますし、描きたい題材もあります」と3度目の登板に意欲。
「ただ、僕が脚本を書くことで、コントのような“お笑い大河”だと思って見ない方もいらっしゃいます。人間ドラマをきちんと描いている自信はありますし、俳優さんもスタッフさんも頑張って、こんなに良い作品を作っているのに、僕の名前があるから見ないとか、違うイメージを持たれてしまうという状況は本当に申し訳ないと思っています。なので、もし次回、大河ドラマをやる時があればペンネームで、違う名前でやらせていただきたいですね(笑)。無名で全くキャリアのない新人作家がもの凄くおもしろい大河を書いていたら、僕だと思ってください(笑)」と語っていた。
大河ファンを自認する三谷氏は「このところ、いろいろなことがあって大河ドラマ元気がないと言われることがあって、こんな楽しい、ワクワクする枠はないという信念を持っています。僕でいいんであれば、何らかのお力になりたいと思っていました。お話があった時はうれしかったです。大河ドラマが終わるんじゃないかと思っている人もいるかもしれません。ようやく60本(21年の[青天を衝け])で第1章が終わる感じ。第2章の2本目を作る感じ」と大河復権&存続に力を込めた。
「脚本家であるなら、大河ドラマはやりたいと思います。毎週同じ曜日の同じ時間にみんなで見るというのは連続ドラマしかない。その中で大河ドラマは1年。1年かけてやるのは大河ドラマと『渡る世間』しかない。『渡る世間』は僕が書くことはないので、大河ドラマをやりたいと思っていました。2本書いて分かったこともあります。そのノウハウを生かして、自分にとっての集大成、最高の大河ドラマにしたい」と意気込んだ。
13人には比企能員、梶原景時、和田義盛、中原親能、二階堂行政、大江広元、北条時政、北条義時、八田知家、安達景盛、三浦義澄、足立遠元、三善康信が名を連ねており、三谷氏は全員の頭文字を取って「ひかわなにお ほほはあみあみ」と名前の覚え方を伝授。「今はほとんど知らない人ばかりだと思います。ですがドラマの放送中には、日本中の人が全員の名前を覚えていると確信しております」と期待を煽った。
続いて、「ここ、試験に出ます」と北条家の家系図をボードに書き、義時について「本来、北条家の中心になる人物ではなかったのに、兄の死で歴史の表舞台にかり出される。何かに似てるなと思ったら、映画ゴッドファーザーのアル・パチーノの設定と似ている。原作者のマリオ・プーゾは、鎌倉時代のこれに影響を受けてゴッドファーザーを作ったんだなと思う」。
「後妻にたきつけられてどんどん悪いやつになっていく時政は『マクベス』。シェークスピアもこの時代に影響を受けていたんだと思う。もっと言えば、お父さんと娘、その弟、婿という設定は『サザエさん』。間違いなく長谷川町子さんは…」と終わらない話で笑わせ、「サザエさんとカツオが手を組んで、マスオさんが死んだ後に波平を磯野家から追い出す。そう考えるとものすごいドラマがある。タラちゃんを義時が滅ぼしてフグ田家は滅亡し、磯野家の鎌倉幕府ができる」と怒濤の解説を行った。
そして三谷氏は「最低視聴率は更新しないというのが目標。正直なところを言うと、数字にはこだわっていないです。面白いものを作ることが僕らの使命。それがどのくらいの人が見てくれるかは二の次。でも、大勢の人に見てもらいたい。誰も見なかったら、存在しないのと同じ。少しでも多くの人に見てもらいたい。半ば冗談で最低視聴率更新はしないといいましたが、気持ちとしては最高視聴率を更新したいです」と言及した。
最後に「締めの言葉も言っといていいですか? この場を借りてどうしてもいいたい」とマイクを再び握った三谷氏は「これから台本を書く作業が始まり、キャスティングが始まり、僕はキャスティングにも想いがありまして、俳優さんは全員が僕は大好きだし、歴史上の人物も大好き。大好きな人たちを一番いい形で一番いい役に振っていきたい。これ以上にないキャストで小栗さん含めて発表していけるといいな」とした上で、[いだてん]のピエール瀧、[麒麟がくる]の沢尻エリカが逮捕されたことに触れ「俳優の方々に言いたい。『オレ、スネに傷がある』という人がいたら、是非断ってください。なんで受けるんだ!と。切にお願いしたい」と笑いを誘った。同席した清水氏を「今のが一番大きい見出しにならないように」と苦笑させていた。
本作は[あまちゃん][サラリーマンNEO 劇場版(笑)][探偵はBARにいる3]の吉田照幸が演出として参加し、プロデューサーに大越大士、吉岡和彦、川口俊介が名を連ねる。
◎あらすじ
平家隆盛の世、北条義時は伊豆の弱小豪族の次男坊に過ぎなかった。だが流罪人・源頼朝と姉・政子の結婚をきっかけに、運命の歯車は回り始める。
1180年、頼朝は関東武士団を結集し平家に反旗を翻した。北条一門はこの無謀な大博打に乗った。頼朝第一の側近となった義時は決死の政治工作を行い、遂には平家一門を打ち破る。幕府を開き将軍となった頼朝。だがその絶頂の時、彼は謎の死を遂げた。偉大な父を超えようともがき苦しむ二代将軍・頼家。“飾り”に徹して命をつなごうとする三代将軍・実朝。将軍の首は義時と御家人たちの間のパワーゲームの中で挿げ替えられていく。
義時は、2人の将軍の叔父として懸命に幕府の舵を取る。源氏の正統が途絶えたとき、北条氏は幕府の頂点にいた。都では後鳥羽上皇が義時討伐の兵を挙げる。武家政権の命運を賭け、義時は最後の決戦に挑む…。
◆北条義時
鎌倉幕府の第2代執権。在職期間は1205年〜1224年。初代執権・北条時政の次男。時政と協力して平氏征討、奥州藤原氏討伐に参加。時政の失脚後は執権になり、和田義盛を滅ぼして侍所別当を兼ねた。源頼朝の正室の姉・北条政子と協力し、承久の乱を鎮圧。幕府権力を安定させ、北条氏の執権政治を固めた。
▽小栗旬コメント
1年半にも亘り、ひとつのテーマ、一本のドラマに出演するという大河ドラマの経験は、生涯一度は体験したい……体験しなければならない……僕にとって俳優としての大きな関門であり、夢であり、挑戦であり、恐れさえ覚える覚悟の要る仕事です。
しかし2年後40歳という節目の年に放送される大河ドラマを演れることに幸運と興奮と、大きな喜びを感じています。ましてや3度目の大河脚本となる三谷幸喜さんの練熟した筆先が、どんな義時像を描き出すのか……また僕自身、どうすれば皆さんの期待を裏切らない義時を演ずる事が出来るのか……など、今から想像するだけでワクワク胸躍る思いです。
2022年大河ドラマ『鎌倉殿の13人』は2022年1月〜12月NHKにて放送予定。