ある夜。鼎は12年前のあの日のことを思い出してしまう。この事件、犯人である怪人の飛焔を倒したことで解決したにはしたが…どうも引っ掛かる。

飛焔の裏には誰かいそうで。あの時…時間帯は本当に夜だったのか?
鼎=悠真は飛焔に襲撃されていたのと周りは火の海だったためわからないが、実はその外ではおかしい現象が起きていた。



ゼノク周辺にシールドが展開されてから3日目。何も起きないまま、時間だけが経過している。
シールドはゼノクを中心に半径3kmに張られている。ゼノクは研究施設・本館・居住区・病院を特にシールド強化していた。


「あれから何も起きねぇな」

御堂はシールドに囲まれた状況を俯瞰している。
「ピタリと出なくなりましたね」
二階堂も会話に加わる。彩音は鼎が気になっていた。

「鼎、あれから元気ないけど…どうしたんだろ…」
「事件のフラッシュバックしたとかじゃねぇのか?あいつ…時々辛そうにしてるからよ」

御堂も気になる様子。



ゼノク・隊員用宿泊棟。鼎の部屋。鼎はずっと閉じ籠っている。


なぜ今になって記憶が鮮明に蘇ってきたんだ?

あの日、あの時…私達家族は飛焔に襲撃され…放火された…。目の前で両親が手にかけられ、逃げ場のないまま追い詰められて。
私は生きたまま焼かれたんだ…。

いや、待て。あの時…もう1人いた気がした。あいつは怪人だったのか?
飛焔は怪人態だった。もう1人は…顔がわからない…。あいつは一体何者なんだ?


鼎は頭を抱える。この12年前の一連の放火事件、飛焔は実行犯なだけでそれを煽動した黒幕がいることに気づく。


「まだこの事件は終わっていない…。黒幕がいる」

鼎は独り言を呟いた。



ゼノク・隊員用休憩所。
御堂は鼎からの電話に出た。

「鼎、どうした?」
「御堂…あの事件はまだ終わっていない…」
鼎の声はどこか力がない。


「犯人の飛焔は倒したはずだろ!?何か思い出したのか?」
「…その『何か』だ。飛焔を煽動した『黒幕』がいる。おそらくそいつも怪人だ。私も顔を見ていないからわからないが…」
「黒幕!?どういうことだよ!?何がどうなって…」

御堂も動揺している。鼎は淡々と続けた。

「元老院が引っ掛かる」



その翌日、ゼノク周辺に異変が起きる。まだ昼間なのにゼノク周辺だけ真っ暗闇になってしまったのだ。
半径3q圏内だけ夜のような闇に包まれる、異常事態。


それを見た蔦沼はある命を発令。隊員達の端末にそれは表示された。

「蔦沼長官から『ゼノク隊員及び本部派遣隊員は出撃するな』って、なんなんだよこれ!?」

御堂は初めて長官からの発令を見た。端末には黒地に白の明朝体で書かれてある。
戒厳令…これはただの闇じゃねぇってことか…。


このゼノク周辺だけが闇に包まれる異常事態は、鼎にとってはトラウマを思い出すものだった。
晴斗は鼎の様子がおかしいことに気づく。


「鼎さん、どうしたの?大丈夫?」
「今何時だ?」
鼎は語気強めに聞いた。

「14時過ぎたばかりだけど…」
「昼間の闇…。闇…」

鼎はガタガタと震えている。鼎は仮面姿だが、明らかに様子がおかしいのがわかる。昼間の闇…。



この異常事態に蔦沼は西澤と南に指示を出す。

「この闇は『奴』が来る前兆だ。隊員をゼノクの外へ出すなよ。職員・入居者はシェルターへ避難させるんだ。西澤、屋上の対怪人兵器を起動させて。相手はかなり手強いからね。シールド強化もお願いね」
「わ、わかりました。…一体何が来るんです?」

「元老院の長・鳶旺(えんおう)だ」


元老院の長!?長官はまさか1人で戦う気なのか!?そんなの無謀だろ!



しばらくして。ゼノク周辺の空気が一変する。ピリピリした空気へとなったのだ。
そして黒い稲妻がゼノクを襲撃するも、強力なシールドに阻まれる。


ゼノクに出現したのは長官の言った通り、鳶旺。
鳶旺は黒いローブにフードを目深に被り、白いベネチアンマスクを着けている。ローブに装飾が施されているのは元老院の長の証。

「隠れても無駄だよ、蔦沼」


鳶旺はそう呟くと、シールドを破壊しようとする。黒い稲妻を武器とするのか、両手から強力な稲妻を発してる。
西澤は屋上の対怪人兵器を自動モードにし、鳶旺に攻撃。


その間に蔦沼は出撃する。西澤は止めようとした。

「本当に行くんですか!?」
「鳶旺は僕じゃないと止められない。完全に倒せなくてもいい。ダメージさえ与えることが出来れば…。西澤と南はゼノクを頼むよ」

「単独出撃なんて無謀すぎますよっ!!」
「大丈夫、死なないから」

その自信、どこから…?



鳶旺はシールド破壊に必死になっている。破壊しようとしているシールドは研究施設。
そこへいきなり蔦沼が現れ、不意討ちをする。

「何っ!?」
「久しぶりだねぇ。鳶旺」
「生きていたのか…蔦沼栄治」

蔦沼はさりげなく義手を展開。
「何しに来たんだい。お目当ては僕じゃなさそうだな」
「10年前の屈辱、忘れないぞ…」

「負けたのはこっちなのにね」



端末に送信された蔦沼の命を見ていなかった者がいた。晴斗と鼎である。

「鼎さん、鼎さん!?」
「あの男…まさかな…。黒い稲妻…。昼間の闇…」
「鼎さんさっきから様子がおかしいよ!?」


鼎はようやく晴斗を見た。

「元老院の長が黒幕だとするならば、なぜここに来たのか」
「行かない方がいいって!鼎さん…すごい動揺してるし…。俺が行く!」


晴斗は長官の命を知らないまま、ゼノクの外へ出てしまう。
西澤から通信が入る。

「暁!長官からの命を見てなかったのか!?今すぐ館内へ戻るんだ!」
「悪い…西澤。私のせいだ。晴斗を出したのは」


西澤は司令室のメインモニターを見た。そこには鼎の姿もある。
「紀柳院も今すぐ戻れ!そいつはものすごく危険だっ!」
「…確かめたいことがある。元老院の長に」

鼎の意思は固かった。



蔦沼vs鳶旺の戦いは始めからデッドヒート。鳶旺は黒い稲妻を主力攻撃としているが、稲妻を縦横無尽に変え蔦沼を容赦なく狙う。
蔦沼はというと両腕の義手を展開し、対等に戦っている。稲妻はバリアで防ぎながらも銃撃などて攻め立てる。

2人の戦いは激しさを増していた。


晴斗と鼎もブレードや銃を使い、鳶旺に攻撃を挑むが歯が全然立たない。

「なんで君たちがいるんだ!?戻るんだ!」


御堂はこの様子を見ていたが、いてもたってもいられなくなる。


「あのバカ…」
御堂は銃を用意し、出る気だった。彩音は止めようとする。

「御堂さん、危ないよ!?行くの!?」
「俺はあくまでも晴斗と鼎を連れ戻すだけだ。あんな気味わりぃ元老院の長となんて戦うわけねーだろ。強さレベルが鐡並みか、以上だあいつは」


御堂はそう言うとゼノクを出た。2人を連れ戻すために。
西澤は御堂に通信を入れる。

「御堂、なんで君まで出てるの!戻れって!」
「西澤、俺は晴斗と鼎をゼノクに連れ戻すだけだ。出来るかはわからねーがな。あいつら2人、我がつえぇかんな」

「御堂!…頼んだよ。鳶旺の強さは君たちでは歯が立たない。だから長官自ら出たんだよ」
「んなこと、わかってるっつーの」


御堂はそういうとだるそうにゼノクを出た。辺り一面闇に包まれてるこの空間自体、異常だ。なぜならまだ昼下がり。


御堂は内心ビビっていた。

長官と元老院の長が対等に戦ってる…。何あのハイレベルなバトルは!?





第29話(下)へ続く。