晴斗は父親・陽一と通話中。

「晴斗、どうしたんだ?こんな時間に電話かけてきて」
「…父さん、隊員時代…『オレンジ色のブレードの発動』使ったって聞いたんだけど…本当?俺…使えたんだ。まだ慣れないけど」
「父さんも『同じの』使ってたよ。もしかして…聞いたのか、『ゼノク』から」


「あ…あの、父さん。暁家と都筑家って何かしら繋がりがあるの…?家族ぐるみの付き合い以外で。鼎さん…『元老院』のやつに襲撃されて…入院してる。
今日、一般病棟に移ったって聞いた」
「悠真が!?ちょっと待って晴斗。今、『元老院』って言わなかったか!?」

「それがどうしたの?」


陽一には心当たりがあった。陽一の隊員時代の敵も「元老院」。その当時は鳶旺(えんおう)がワンマンで異空間を支配していたらしく、黎明期のゼルフェノアは怪人相手に苦戦を強いられてた。
ゼルフェノアvs元老院はゼルフェノア黎明期からあったのである。


「いいか晴斗、よく聞けよ。暁家は『怒り』を原動力にして能力(ちから)に変えることが出来るらしい家系なんだ。
今のところはどうやら父さんと、晴斗だけらしいが…。『怒りの正しい使い方』を教えたのはこのため。使い方を誤ると身を滅ぼすことになる。晴斗はうまく使っているようだな。
…都筑家は『守り』に特化しているとか聞いた。潜在的すぎてわからないが。悠真が狙われたのはその力が強いから…と、俺は推測するよ。相手は怪人だ。たとえ名前や姿が変わっても、すぐに見抜いてしまうからな」

「父さん…鼎さんが『悠真姉ちゃん』だったの、知ってたの…?」
「知っていた。母さんにこのことをカミングアウトしたのは俺だよ。だから母さん、あの事件をタブー視しなくなっていただろ?」


晴斗は電話を切る前にこんなことを聞いた。

「鼎さん…事件後しばらくして、組織の施設に匿われていたって本当なの?」
「本当だ。悠真…いや、鼎を支援しに父さんも会っていたんだ。それからして、鼎は駒澤と仲良くなれたみたいだから父さんは身を引いたんだけどね」


駒澤…彩音さんだ。確か、彩音さんはゼルフェノア所属の「怪人被害支援組織ノア」にいた時代があったんだった。その時に鼎さん=悠真姉ちゃんを対面したんだ。


「父さん、ありがとう」

「晴斗、鼎の能力(ちから)はまだ出ていないはずだが、元老院に狙われたとなると…お前が鼎を守れ。
そのブレードのオレンジ色の発動、『レイジングスラッシュ』は本来、人を守るためのもの。鼎の能力はまだわからないが…暁家同様、『人を守るもの』だと予想してる」


れ…レイジングスラッシュ?

あのオレンジ色の超攻撃的な発動に、必殺技みたいな名前があったとは…。


都筑家は潜在的すぎてなかなか表に出ないらしい。悠真姉ちゃんだけうっすらと出ていたらしいが…。



ゼノク・本館隣接ゼルフェノア直属病院・一般病棟。


鼎は幾分回復したが、まだ時間がかかる模様。
鼎がいる病室に御堂と彩音がお見舞いに来た。


「鼎…無茶すんなって言っただろ…」
御堂は怪我人を前にしてるので言い方が普段に比べたら少しマイルド。

「あの時、体が勝手に動いてしまったんだ。気づいたら刺されてた」
「鼎、何か思い出せない?なんで元老院に狙われたのか…とか。西澤室長と蔦沼長官は晴斗と鼎、『2人』を狙っているみたいなことを言っててさ…」

彩音は聞いている。鼎はポツポツと言い始める。


「あの事件以前…変なものに後をつけられていたことが度々あった」
「それってストーカー…」
「それがおかしいことに人間という感じがしなかった…。異形のものというのか?今思えばあれは怪人だったかもしれない」


鼎=悠真はあの事件以前から、小さな異変があったということになる。


「都筑家は暁家と家族ぐるみの付き合いがあったが、他にも繋がりがあったらしい」
「えっ?」

「能力(ちから)だ」


え?能力?能力って何!?


「私もわからないが…都筑家は暁家同様、『人を守る』ための能力(ちから)があったらしい。だが…あの事件でもう、誰にも聞けなくなってしまった…」


鼎の声に力がない。鼎はあの事件で家族を失っている。詳しく聞ける人間がもう、いない。

「暁家なら…どうだろうか…。それかうっすら聞いた、『北川』という…ゼルフェノア最初の司令なら」


御堂は「北川司令」という名前に聞き覚えが。
「北川司令…いや、北川さんと連絡が取れれば…」



本部では招かれざる客が来ていた。宇崎は明らかに敵視している。

「お前ら、鐡一派!何しに来たっ!」


鐡達3人は普段と服装が違った上に、鐡はやけに丁寧な語り口で話す。めちゃくちゃ腰が低い。

「今回は同盟を組みましょうという話をしたいのですよ。司令」
「はあっ!?」
「だからゼルフェノアの敵は『元老院』でしょう。俺達の敵も『元老院』。あの元老院の長・鳶旺(えんおう)はかなり厄介だからな」


宇崎、かなり戸惑う。
そこへ時任が何も知らずに入ってきた。

「うぎゃー!なんで敵の皆さんがいるんすか!?」
「敵じゃない。同じ敵を共に倒す『仲間』だ」

釵游(さゆう)がさらっと答えた。時任は胡散臭げ。
「味方ヅラしても無駄だかんなっ!!テメーら」

時任、知らぬ間に口が悪くなっていた。御堂達がゼノクに行ってる間、時任と霧人が現場で回している状態なのもあるのか?


鐡は宇崎にこんなことを言う。
「ゼルフェノアだけでは倒せないぞ、元老院は。ずっと敵対してんだろ?だから決着のお手伝いを俺達がしようってわけ。下心はないぞ」
「室長、どうすんすか!?」
「長官に掛け合ってみるか。長官判断で決まるから」



ゼノク・司令室。


「長官、本部から連絡来てますよ」
西澤は慌ててる。蔦沼はマイペース。

「…どうした、宇崎」
「蔦沼長官、信じるかはわからないですが『鐡一派』が共に元老院を倒しましょうと同盟を持ちかけて来ましてですね…」
「なるほどなぁ。鐡一派の敵も『元老院』だから共に倒そうという魂胆か」
「長官、どうします?」


「あえて乗ろうじゃないか」
「乗っちゃうの!?長官頭おかしくなった!?相手は敵ですよ!?」
「元老院を倒すまでの間、一時的でも味方になるなら都合がいいからね。暁と紀柳院を元老院から狙われずに済むには…敵同士戦わせればいい。
鐡は頭が切れるみたいだから何かしら策がありそうだが…。とにかく乗ってみようか」


「…だ、そうだ。…というわけでゼルフェノアは君たちと組む流れになりました」
「本当か!?」

鐡、嬉しそう。こうしてゼルフェノアと鐡一派は元老院を倒すという一時的な同盟が組まれることになる。

…いびつな同盟だが。



これを聞いて衝撃を受けたのはゼノク隊員と本部から派遣された隊員達。


「その話マジなのか!?鐡一派と同盟って…長官どうかしてるぞ」
御堂が珍しく慌ててる。二階堂は冷静に見てる。

「長官のことなので、何かしら策があるのではないかと…。あえて話に乗ったのではないでしょうか」
「その節めちゃくちゃ強そうよな…」

晴斗もパニクっていた。つい最近まで戦ってた相手がいきなり味方とか、理解が追いついてない。


「鐡が味方って、意味わかんないよ〜!」
「元老院がそれだけヤバいってことなんだろうな…。鐡の敵も元老院か。…これ、どうなんのよ?」



蔦沼の一声でゼルフェノアと鐡一派は同盟を組み、元老院撃破を目指すことになるが…果たして?