本部では宇崎が晴斗を呼び出す。
「何?何!?俺呼んだってことはなんかヤバいの?」


晴斗は高校ライフ満喫中。宇崎はめんどくさそうに説明した。
「最近鬼だかなんだか知らないけど、新たな怪人が出てるでしょ。いまいち戦力が欠けてるから呼んだんだよ。
晴斗のブレードは強力だからな」

「だってよ、恒暁(こうぎょう)」
晴斗は自分の対怪人用ブレードに話しかけた。ブレードは突如人間化する。防弾ベストにプロテクター姿の青年・恒暁が現れた。

「やっほーい!ようやく俺の出番かー?」
「室長、恒暁相当暇だったみたいだから大目にみてやって」

晴斗も恒暁にたじたじな様子。


「あれ?鼎さんは」

「鼎は用があっていちか・桐谷・霧人と一緒にゼノクに行ってるよ。晴斗、『闇の執行人』の噂は知ってるだろ。
そいつが鼎と話がしたくて呼んだらしい」
「…え?その人ゼルフェノアの人だったの!?」

晴斗、かなり驚いてる。


「厳密にはゼノクの人間だがな。どういうわけか鼎に接触してきた。
『闇の執行人』は通称で実際は『特殊請負人』っていうらしい。請負人はいわば組織の裏の人間だから表の人間に接触すること自体、稀なんだけどね」

「…で、室長は俺に何して欲しいわけ?」
「鬼退治」


お、鬼退治…?


「異空間に敵の手によって市民が次々と消えてるから、誰かが異空間に行かないとならんかもな〜」
「それどういうこと!?」

「だからその鬼とやらが何かをするために一般人を拉致ってるわけ。警察と協力してるが進展なし。
考えられるのは奴らが出入りしている異空間に市民がいる」
「どれくらい人消えてるのさ」
「ざっと50人くらいは短期間で消えてるね。その怪人による拉致もピタッと止まったんだが、代わりに地震が頻発し始めた」
「地震と関係あるの、それ?」
晴斗、半信半疑。

「時期が気持ち悪いくらいに被ってんだよ。怪人の拉致が止まったタイミングと首都圏で地震が頻発し始めたタイミングが」



ゼノク・組織用休憩所。鼎達はそこで話をしている。

「いちか、憐鶴(れんかく)に違和感なかったか?」
「あったっすね。あんなにもペラペラ喋ってるのに、口元がモゴモゴしてないのが気になったかな」

「あの包帯も何かしらあるようにしか見えない。後から知ったが、包帯は毎回姫島の手で巻かれていると」
「姫島って、あの世話役の人っすよね」



あの後。地下を出た2人の元に世話役の姫島が来た。少しだけ話をしてから鼎達2人は戻ったのだが、姫島から聞いた話はこう。

憐鶴が特殊請負人を引き受けたのは5年前だと。


「なんか憐鶴さん、冷たい感じがしたっすよね〜」
「感情を失ったのかわからないが、あれでは復讐執行人ではないか。
憐鶴はかなり警戒心が強い。歩み寄るのは難しいかもな…」


「…あれから姫島さんから全然連絡来ないね。あたし達、今日帰れるのかなぁ」
「憐鶴次第だからなんとも言えんな」



ゼノク・地下。憐鶴はある場所へ向かおうとする。

「憐鶴さん、どこへ行くんですか?」
「姫島さん、今日は『特異日』なので制御を解放しなければいけません。これから研究施設へ向かいます」

「紀柳院さんはいいのですか?話の続きは?」
「話は明日に延期だと伝えて下さい。制御の解放が優先です」


…延期?



姫島から連絡が来た。それは話の延期という内容。

「延期?」
「憐鶴さんは今夜急用が出来まして…。研究施設に用があると言ってました」


研究施設?あのゼノクの心臓部とも言える、巨大研究機関か。


「わ、わかった」
鼎は通話を切った。いちかが心配そうに見ている。
「きりゅさんなんだって?」
「話の続きは明日に延期になったと聞いた。憐鶴は研究施設に急用が出来たらしい」
「研究施設?なんか怪しくないっすか。こんな時間帯に研究施設って」


今の時間は夜19時過ぎ。本部から来た4人は食堂で夕食を食べ終えている。


「きりゅさん、行ってみようよ研究施設」
心なしか小声になるいちか。
「勝手なことしていいのか?」
「あたし達ゼルフェノアの人間だよ?隊員証があれば研究施設も入れるっしょ」


「時任、やめとけ」
霧人が制止する。

「なんでー?」
「ゼノクは謎だらけだが、憐鶴は何か裏がありそうな気がする。詮索するな。研究施設となれば長官が絡んでそうだからな…」

「しぶやん、ますます気になったじゃんか」


しまった。時任には逆効果だったか…。



そんなこんなで。


「いちか、どうなっても知らんからな」
鼎、渋々いちかと共に研究施設へ。2人とも夜の研究施設に潜入するため、話し声が小さい。

いちかの読み通り、隊員証をスキャンしたらあっさりと入れた。ゼノク本館よりもセキュリティが甘い気がするのは気のせいか?



研究施設を進んでいくが、人気がない。しばらくすると灯りがついているエリアがあった。

「『E-21』、このエリアだけ電気が点いてるな」
「他は薄暗いのにやっぱり怪しいっすよ」
2人はひそひそ話をしながら慎重に進む。


やがて大きな部屋へとたどり着いた。中から蔦沼と憐鶴の話し声が聞こえる。

「今、『特異日』と言ってなかったか?」
「ちょっとだけドア開けるよ〜」
「いちか、慎重にやれよ」
「ラジャー」


いちかは慎重にそーっとドアを僅かに開ける。2人は部屋の中を見た。
そこには蔦沼と憐鶴の姿が。蔦沼は優しく憐鶴の顔に巻かれた包帯を外していくが、憐鶴は後ろ向きなため素顔は一切見えない。


「憐鶴、この包帯は特殊仕様だから制御出来てるけど…たまに制御を解かないと身体が壊れちゃうでしょ?」
「…はい」
「この部屋は頑丈だ、存分に力を放出しなさいな。エネルギーに転換出来るシステムもあるわけだし、一石二鳥」


制御って…何。


憐鶴は念を込めたと同時に強力な光が部屋中を包んだ。光?雷?なんなんだ…。

ひとしきり力の放出を終えた憐鶴は一瞬、ドアの方向を見た。鼎はとっさにいちかの口を手で塞ぐ。
2人は一瞬、憐鶴の素顔を見てしまった。明らかに見てはいけないものを見てしまう。


2人は憐鶴にバレないように研究施設を急いで出る。いちかはまた叫びかけたので、鼎に助けられた。



2人は本館に着き、ようやく普通の声で話す。

「き、きりゅさん…今のあれ…見たよね…。怖かったよぉ…」
「憐鶴の包帯の理由があれだとはな…。制御の役割もあったとは」

「そ、それよりもあれは…『あれ』が重度の後遺症だっていうの!?怪人由来どころじゃないよ…!」
「だから『人間には治療不可能』と云われていたのか…。あれじゃ人前になんて出られるはずもない」


「きりゅさん…なんか悪夢見そうで嫌だ…」
「そう言うな。憐鶴だってなりたくてああなったわけじゃない」


「きりゅさん…あたし達、今日泊まりなんだよね」
「予定が変わったから、泊まりになったぞ」
「…きりゅさん、今夜は側にいてー!」

いちかは恐怖で鼎に助けを求めているかのよう。


「…仕方ないな。女子は私達2人だけだから部屋、一緒でも構わないぞ。
いちかは私の素顔は1度は見てるから平気だろ?」
「う、うん…。きりゅさんは平気…慣れてるから」

鼎はいちかの頭をなでなでした。
「今夜は私がいるから心配するな」
「きりゅさ〜ん」

いちかは泣きそう。



ゼノク・組織用宿泊棟。鼎といちかは2人部屋に泊まる流れに。2人部屋は2段ベッドがあった。


「合宿みたいだな…2人部屋…」
「在りし日の部活を思い出すっす」


いちかは2段ベッドの下にした。荷物を漁りながら鼎に聞いてる。

「きりゅさん泊まりになるの、想定してたの?なんかバッグ大きい」
「ゼノクに行けばこのパターンが多いからな。一応持ってきといた。足りないものはゼノクの奴らにいっておけば持ってきてくれるぞ」

「きりゅさんゼノク慣れしてる…」


鼎は2段ベッドの上。

「いちか、話はいくらでも聞いてやるから遠慮するな。まだ眠くないんだろ」
「きりゅさんは心の友だよーっ!」
「声大きい」

「あっ、ごめん」



いちかはなかなか眠れなかったのか、鼎と話してる。

「いちかはなんでゼルフェノアに入ったんだ?」
「ヒーローへの憧れっすね。必殺技が欲しくてワイヤー使いになったんだ。
きりゅさんはなんで入ったの?」


「最初の頃は復讐だったが…和希や彩音と出会ってからは変わったよ」
「きりゅさん…最初荒んでない?」

「私も怪人の被害者だから復讐もしたくなるだろ。和希と彩音のおかげで目が覚めた。室長のおかげでもあるし。
憐鶴も救えればいいのだが…。あいつは復讐に取りつかれている」
「あんだけ執念深いとは思わなかったけど、あの後遺症じゃ恨むのも仕方ないのかな…」

「こればかりはわからないよ。あいつは心を閉ざしてる。かつての私以上に硬い殻に閉じ籠っているからな…」