晴斗vs鐡戦から一夜明け、ゼノク内部にある隊員用宿泊棟では鼎が晴斗がなかなか起きてこないことに気づく。普段ならとうに起きて本館にいる時間帯なのに。


あいつ、大丈夫なのか…?



「晴斗が来ない?」


御堂も気にはなっていた。前日あれだけ激しい戦闘をしたんだ、いくらタフでも鐡との差は歴然で。昨夜はピンピンしていたが…消耗が激しかったのかねぇ。


「何度か連絡したが、出なかったぞ」
「鼎、わざわざ起こしに行ったのかよ…」

「いけないのか?」


いけなくはないが…鼎は晴斗には甘いからな〜。



ゼノク・隊員用宿泊棟。ここはゼノク隊員用ではなく、本部や支部などから派遣された隊員が泊まるためにある宿泊棟。
ゼノク職員・隊員は専用の居住区がある。近くから出勤している人もまあまあいるような感じ。


晴斗は体が鉛のように重く感じていた。ほとんど動けない…。
昨日の鐡戦のせいだろうか…。


そんな晴斗に連絡が入る。晴斗はギリギリしながらスマホを取ると、電話に出た。

「暁。西澤だよ。大丈夫か?」
「西澤室長…?なんですか、いきなり」


西澤は晴斗の声の調子ですぐにわかったらしい。

「声の調子からするに動けないんだろう。ゆっくり休むんだ。寝るのも大事ですよ。本部隊員には君が消耗が激しくて動けないことを伝えておきますね。今日は無理でしょう」

「そんなに俺、ヤバいの?」


「昨日、たまたま君が発動したオレンジ色の『あれ』、かなりの体力を消耗することだけはわかったんだ。暁のブレードを調べてみないことにはわからないが、ま。今日はゆっくり寝ててね」


ブレードを調べてみないとわからない!?昨日の「あれ」って、一体何が起きてんだ!?

晴斗自身もまだわかっていなかった。とにかくやたらと体力を消耗することだけはわかったが。



ゼノク・本館。本部隊員、晴斗以外が集まっていたところに西澤が来る。


「暁と連絡してみましたよ。昨日の今日だから消耗激しくて動けないらしい。だから今日は寝て休めと言っておきました」
「晴斗が動けないなんて、珍しいよな…」

御堂も微妙な感じに。鼎は西澤に聞いてみる。


「あのオレンジ色に変化した晴斗のブレードが関係してるのか!?」
「恒暁(こうぎょう)は調べてみないとわからないよ。明日以降、暁のブレードは調査しますよ。敵の動向からして、ゼノク周辺にはしばらく来ないと見たからね」



ゼノク・司令室。


蔦沼は南と会話中。
「暁の恒暁、陽一のブレードと同じような反応を見せてるんだよな〜。そこまで似なくてもいいのに」

陽一とは晴斗の父親。元ゼルフェノア隊員。蔦沼は隊員時代の陽一を知る人物でもある。


「陽一も怒りをエネルギーに変えていたが、それと関係してるのか?」

隊員時代の陽一は怪人の悪行に正義感故に怒りを見せていたが、怒りをエネルギーに変え次々と撃破していた経歴がある。これを知る者は少ない。



異空間・元老院。


鐡がついに動き出す。

「おい、ジジイ。そろそろうちの部下達を返して貰おうか?」


鐡はジリジリと鳶旺(えんおう)に迫る。かなり高圧的な態度。
2人の距離はかなり近い。元老院の長と副官は黒いローブに白いベネチアンマスク、フードを目深に被っていて顔なんて隠れて見えないが、鐡に圧倒され鳶旺は少し後退している。


「お前らの道具じゃねーんだよ、釵游(さゆう)と杞亜羅(きあら)はな。だから返しやがれ」
「嫌だと言ったら?」
「てめーを叩きのめすまでよ。元老院の長vsメギドを統べる者、戦ったら面白くねぇか?」

「ふざけてるのか!」
「俺はあんたの力を見たいのよ。元老院の長に本当にふさわしいのか、じゃあさ…これから勝負しない?あくまでも怪人態にはならずに人間態限定で。場所は元老院の外でな。俺が勝ったら部下は返して貰うぞ」


鐡は元老院とあえて勝負することにした。幹部を返す条件で。ほとんど一方的だが、鳶旺も鐡の気迫には勝てなかった様子。

副官の絲庵(しあん)は止めようとする。
「長、いいのですか!?鐡は挑発してますよ!?」
「この対立は前からあっただろう?それだけだ」


鐡はそれを聞いてニヤリとした。



ゼノク・東館。


いちかの兄・眞(まこと)は最近起きてるゼノク周辺の怪人案件が気になっていた。
眞は全身タイツのようなゼノクスーツを着ているために、顔が隠れて見えないが同じゼノク入居者とは友達も出来たしそつなくやれている。


そんな眞には似たようなゼノクスーツを着た友達がいた。七美である。年齢も近く、彼女はパステルカラーやピンク色のゼノクスーツを好んで来てる。

見た目だけでも女性らしくしたいのか、スーツの上にウィッグ着けてるのが見ていて暑そうだが、彼女には関係ないらしい。


「まこっちゃん、最近妹に会ったんだ〜。ゼルフェノア隊員だっけ?」
「いちかのことか?」
「あぁ、それだ。『時任いちか』」


「お前、また変な配信する気じゃないんだろうな〜」


眞は七美に釘を刺している。七美はゼノクのインフルエンサー的な存在。

ゼノクスーツの存在を知って欲しいが故に配信を始めた。組織の機密に触れない範囲内での配信は認められている。
この世界ではゼノクを出た後も少数だがゼノクスーツに頼る怪人被害者もいるために、認知度を上げる必要がある。

組織でもたまにイベントをやっているのだが。


「今回の配信は『ゼノクスーツを着た状態でお菓子は作れるのか!?』だから無問題だよ」
「ゼノクスーツの可能性に挑戦しすぎだろ…七美。今回は何作るのさ」

「えっ?クッキー作りだよ」


こいつのポテンシャル高いよな…。


ゼノクで治療しつつも、居住区ではちゃっかり配信している。たまにはスポーツに挑戦したりと積極的なせいで、じわじわ再生回数伸びてるんだっけ。

七美曰く、「ゼノクスーツは顔が見えないからやりやすい」って…。
七美にはこだわりがあるらしく、配信する時は必ずピンク色のゼノクスーツを着る。カラーバリエーションが多いゼノクスーツなので、ピンクだけでも多様。


「最近ゼノク出た人、出戻りしたみたいだけど…ゼノクスーツ着てると弊害ヤバいって聞いた」
「だから最近居住区に微妙に人、増えたのか」


「私達も適応出来なくなるのかな。だってさぁ、ゼノク出た後も少数だけれどゼノクスーツ着ている人…いるんだよね…。
人によっては人前だけゼノクスーツとかもあるみたいだよ…。その逆もあるってさ」

「そういや七美、俺達よりも職員の方がヤバいと聞いたよ。ゼノクスーツ依存性になってる人、意外と多いって。
俺達は治療目的で着てるから依存も何もないが、職員達はビジネスゼノクスーツだからなりやすいのかなぁ」
「インフォメーションの烏丸さん、かなりヤバそう…」


「烏丸」とはゼノク職員で、インフォメーションにいる。人前では常にゼノクスーツ姿なために逆に心配されてしまってる。



ゼノク・本館。


その日のインフォメーションには烏丸がいなかった。どうやら休みらしい。鼎はよく烏丸と会話していたので変な感じ。


「今日は烏丸いないのか…」
「紀柳院さん、ごめんね。今日は烏丸さん、休みなんだ」

インフォメーションは基本的に2人体制。もう1人の人が申し訳なさそうに言ってる。
すると、ショートヘアーの女性がゼノクから出るのを見た。


「…ゼノクにあんな人、いたか?」
鼎が聞いてる。

「あれ…烏丸さんですよ?」
「烏丸だと!?素顔あんな感じなのか!?」
「でも彼女、ゼノクスーツ依存性らしいからバッグの中にスーツ入れてるはず…」
「ビジネスゼノクスーツの弊害か…」





第27話(下)へ続く。