ある冒険者のひとりごと……20 不老長寿の餅祭り 受け付けにて……

………


不老長寿の餅祭り 後半を迎えた ある日


不老不死の村 酒場前の
噴水広場は 祭りに参加する冒険者で溢(あふ)れていた……

普段は 静かな村が 集まって来る冒険者で活気に満ちている………


ワタシはパートナーと共にこの村を訪れていた……

ハウジング家具“明け障子″と“ローボード″を求めて………



「お久しぶりです。」



なんとなく掲示板を眺めていると
いきなり声を かけられた…

聞き覚えのある声に振り返ると
ソラウッサーの頭を被(かぶ)った“彼”がいた……亥年の白い和装が彼に似合っているのだが……

(………なぜ?!
ウサギ?………)

ワタシは少なからず動揺した……
彼の改名の原因を作ったから……
彼は“ちょうど変えようと思っていました。″と
あの時言ってくれたが…
無言の抗議……?
いやそんな事は……
ひとり 考えのループに陥(おちい)り ながらも…
何時(いつ)もの様に
会話をする……



「……久しぶりだな


…………………


ところで……
そなた達の旗印は 鷹(たか)では なかったか?………」



“彼”は3度目(みたびめ)の
ボンドを 旗上げしていた…


鷹を頂(いただ)く その旗の下(もと)“彼”は
“団長”として 新人育成に励(はげ)んでいた……



「ウサウサ団に、改名しました……

月よりの使者(ウサギ)です……。」



ソラウッサーの被り物の中で…
…どやっ?顔している様(さま)がワタシには見える様(よう)な……気がした
…………


「…………………」



「……ねぇ
”突っ込み!″いれたほうがよくない……?」



ひそひそとパートナーが ワタシに ささやく……



…………………


と その時……



「局長…

団長…

こんにちは…」



白いパーカーに黒い短パン
薄い水色の長い髪が右目を隠し 白いマスクを掛けた幼女が
ワタシ達に声をかけてきた……

ワタシのボンド メンバーの1人で 他の仲間(ボンメン)からは なぜか“ネキ″と呼ばれている彼女だ………



「……あぁ」


「こんにちは……。」



ワタシが二代目ボンドマスターになってから“局長″呼びが彼女によって定着してしまったようで
他のメンバーもワタシを そう呼ぶのだ……


…………


彼女も“彼″に勧誘(かんゆう)されてワタシ達のボンドに入ったのだ……

もっともワタシはメンバー勧誘をしないので
彼の選んだメンバーがほとんどなのだが…………



「貴女(あなた)も、
シシ餅を?…………。」



「……家具か?…」



彼女はコクりとうなずく



……シシ餅は神使コマジシが落とす アイテムで 祭り期間限定アイテムと交換できる……
障子やローボード 炬燵(こたつ) 座布団(ざぶとん)など ここでしか手に入らない 珍品揃(ぞろ)いなのだ………



「そう〜〜なんですよ〜〜
和室を作るのに必要
なんで わたしたちも周回中 なんです〜〜」



薄い桃色(パステルピンク)の髪をした彼女のパートナーが
のんびりした口調で
話を続ける……
閉じているような細い目が印象に残る……


「あなたのところも
そうなんだ〜〜」



ワタシのパートナーも
話にまざる……



「ここで立ち話も、なんだから…
私達は 向こうで話しましょ…

ここの“オゾーニ”
美味しいのよ……。」



薄い桃色(パステルピンク)の髪を後ろで束ねた彼のパートナーが食事に 誘う……



「わたしは〜
オシルコが食べたいです〜〜」



「じゃ わたしたちは
ちょっと 行ってくるね…」


「あぁ……ゆっくりして来ると いい……」



パートナー達は 餅(もち)を片手に この村の酒場の店主の元に駆けて行った…

この時期に 現れる
魔物“モチミ″……
自分が食べるわけでも無いのに 粢餅(しとぎもち)を持ち歩いている……
その餅を酒場の店主(マスター)に渡すと オシルコやオゾーニに錬金術合成してくれる……

他にも布団一式や火鉢 和傘 にも交換してくれた……



パステルピンク髪の2人と白灰色の髪をした
パートナー達が去り
ワタシ達は3人残された……



「そちらは、変わりないですか?」



ウサギの被り物のまま
彼は訊(たず)ねる………



「あぁ……
変わりない……」


「(゜-゜*)(。_。*) コク…」



「そうですか……。」



「なぜ ソラウッサー (´・ω・`)?」



マスク越しに彼女が問いかける…



「最近、手に入ったもので……」



「……モモウッサーなら
上下 2セット 手に入った(-_-;) ……」



……………

……


彼らの会話をよそに
ワタシは 物思いに耽(ふけ)っていた……


……………


ワタシが彼から引き継いだボンドは 現在 メンバーの増減は なかった…

いや…いつの間にか サブリーダーが入れた新人が居(い)なくなっていたか……

結局 彼女とは 話せずじまいのままだったな………

いいボンドが見付かるとよいが………


……………………



「……ねぇ これって
相合い傘じゃない?……」


「え〜……
ウソ……ほんとに……?」


1人 物思いに耽(ふけ)っていると……


噴水の向こうから
女の子達の おしゃべりが聞こえてきた……



…!?



「………こうやって……
2人 ならぶと……」



「……キャー……
ほんとだ〜〜」



賑(にぎ)やかな声の方へ
自然とワタシの視線が向く……


あれは?

……粢餅(しとぎもち)と交換で手に出来る
和傘………



………………



「相合い傘……

和傘にそういう使い方が……」



…………



「……ちょっと交換所
行ってくる…」



会話を止(や)め
ワタシを注視する2人を しり目に酒場の方へ駆け出した………


酒場前で赤い和傘が粢餅(しとぎもち)と交換できた……



「よぉ! 褐色の嬢ちゃん……
何か入り用か?」



酒場の店主(マスター)が気さくに声をかけてくる……



「………和傘を……」



交換に必要な餅を店主(マスター)に突き付け
要求する……



「どういった風の吹き回しだ?

この間までは勧(すす)めても“必要ない…″
の一点張りだったよな…」


「…………」



「まっ こっちも商売だから余計な詮索(せんさく)は
しないけどな……


ほれっ
毎度あり!!」



酒場の店主(マスター)
から傘を受けとると
急いで その場を離れる……


(いきおいで 和傘を手に入れてしまった……

………どうする?)


もともと使い道が無いから酒場の店主(マスター)の お勧め を断わってきたのだが……


……せっかく手にしたのだから 一通り試して 衣装箱(ドレッサー)行きになるか……


考え事をしながら
赤い和傘を手に ソラウッサーの頭を被(かぶ)った団長と 青みがかった白髪の幼女の元にワタシは戻った……


「和傘…、ですか?」


「局長……
('_'?)
それは?」



ワタシの手もとを見て二人が声をかけてきた…



「あぁ……

見ての通りだ……」


傘を もてあましながら
ワタシは答えた…



「……ちょっと
いいか?」


ワタシより少し 背の低い
彼女の隣に立ち
二人のあいだに傘を差してみる…



「……('_'?)

………局長…?」



彼女は 怪訝(けげん)な顔をマスクの下で浮かべて
いるのは
声色から伝わってくる……


「…………………。」



彼は ウサギの被り物のまま 無言でワタシ達を見ている………



「……ふむ…

…………………

確かに 相合い傘だな……」


ワタシは 二人の事など
意に介(かい)さず
…ひとり納得していた……気になった事は試さずにはいられない…
ワタシの癖(くせ)である……



「…局長………

わたしより 彼と 相合い傘 しては どうです?…」



「…!!」



彼女の声に 考え事をしていた ワタシは 我に帰った…



「……し …しかし

彼が …了承(りょうしょう)するか……」


顔が上気し ワタシは
シドロモドロに彼女に答える…

以前ワタシは彼に対して
“ 片思い” という病(やまい)に落ちた事があるのだ…

今は症状は落ち着いているが アノときは かなり苦しい思いが続いた……

ソレを知ってか知らずか
いま彼は 被り物をして ワタシに対して顔が見えない状況(じょうきょう)……
もし…彼が…素顔だったら

ワタシは…
まともに話す事が出来ただろうか………



「私は、構いません。」



いつもと変わらぬ声が聞こえて来る……



「彼も あぁ言ってます…」


「……で

…でもぉ……」



ワタシは躊躇(ちゅうちょ)してしまう…


まだ……

…ワタシは…

彼のことを………

………………


「局長!!……」



「…!?」



突然 彼女に
強い力で
背を押され
ワタシは和傘を手にしたまま…

彼の方へ よろめき
倒(たお)れそうになった…


「…大丈夫ですか?」



彼に抱きかかえられ
ワタシは転倒せずに済んだ…



「……あっ!!

…………………

あぁ……

大丈夫だ………」



ワタシは なんとか冷静さを取り戻し
普段(いつも)通りに言葉を返した…


「…………

……かさ


ためして……



いい…だろうか………?」


転びかけたとき どこか痛(いた)めたのか…涙で滲(にじ)むワタシの目に
彼のすがたが キラキラして見えた…



……顔はウサギの被り物のままだったが………



「ええ、どうぞ……。」



ワタシの隣(となり)に立つ彼は いつもと変わらず
接(せっ)してくれる……



「……で では

しつれいして………」



彼から見えないように
こっそりと 涙を拭(ぬぐ)い………

あくまで自然に彼の隣(となり)に立つ……


……………

…………………

……………………(-_-;)



そう ワタシは背が低く
彼は背が高い……………


子供と大人(おとな)とは
まさに このこと……
一つの傘にふたり入ることができない………


三人共(さんにんとも)に
言葉が なかった………



「あっ、私座りましょうか?」



彼の自然な気遣(きづか)いが ワタシの小さな胸の奥からジンワリと幸福感(しあわせ)が広がってくる……

……まだ…

…………彼のことが……

……………………



「どうしました?」



「局長!

彼を 待たせないで……」



「……あ

あぁ……」



二人の言葉に ワタシは
胡座(あぐら)座りをした
彼のとなりに白い渦巻(うずま)き模様の入った赤い和傘を片手に立つ……



…………

………………

……………………(-_-;)



たしかに 和傘の中に
ふたりは 収(おさ)まった
………しかし ナニかが違う……



沈黙(ちんもく)が3人の間(あいだ)を流れる……



………………



向こうから 賑(にぎ)やかな声が近づいてきた



ワタシ達のパートナー達が酒場から帰ってきたのだ…
ワタシは
慌(あわ)てて彼から離れる


「あれっ?

きみ その傘は…」



ワタシの手にした 赤い和傘にパートナーが気づいた


「……あ
あぁ……

これは………」



……困ったな
どう説明すれば 良(い)いものか………



「もしかして………

わたしのために?」



「……あ
あぁ……

そうだ……

気に入ってくれるか?」



………………

…………………( ̄0 ̄;)


団長とネキは沈黙している………

ワタシは心の中で二人に
謝(あやま)った



「わぁ〜〜……

1人だけズルい〜〜」



「あら
よかったわね〜」



「えへへ……」



パートナー達が盛り上がっている……



「……ワタシ達も呑(の)みに いかないか?」



「いいですね〜。」



「お代は 局長 持ちで……
( ̄O ̄)/」



「……あぁ
そうさせてくれ…」



「私は、部外者なので
自分の分は払いますよ。」


「……いや 迷惑をかけた
一杯 おごらせてくれ…」



「そういうことでしたら…。」



話がまとまった ワタシ達はパートナー達と入れ替わりに酒場に向かった……



……………


ある冒険者のひとりごと……20 不老長寿の餅祭り 受け付けにて……おわり

ある冒険者のひとりごと……19 マイホーム その6 ー後編ー

…………


山頂にたどり着くと

辺り一面 下草の 生い茂る空き地が広がっていた……
空は曇っては いるが
日は十分に差し
周囲(あたり)はじゅうぶんすぎる程(ほど)
明るかった……


しかし 南国とはいえ 山頂の為 共和国上下服では 少し肌寒かった……


パートナーの方を向くと

………平気そうだった…

メイドは……いつも通り
くすんだ桃色の公国メイド服に白いエプロンを着けた姿で
微笑(ほほえ)んでいた………




………………



「……着いたな

………話してもらおうか……」



ワタシはメイドの方を向く……

パートナーも となりで
うなずく……



「………条件が そろいました………」


「ご主人様……

これを お受け取りください………」



メイドの手には一通の封書があった……



「……それは?」



「……何とも 言いにくいのですが……

条件が そろったときに

この場所で
ご主人様に お渡しするようにと……

依頼を受けた……

……らしいのです……」



「らしい?

って どういうこと?」



「……いつの間にか 封書が わたしの手元に あったのです

依頼状にも契約した痕跡(あと)がありました……

契約したからには実行しなくてはなりません……」



「………なるほど
仕事に忠実なのだな……」


「ほんとだ……依頼契約書に
サインがある………

…………

………知らない名前だね…」



「えぇ……わたしにも
心当たりが なくて……」



メイドから受け取った封書の宛名はワタシ……
差出人は………

ワタシ達に家具の調達を
依頼した 彼 だった……」


(…………やはり

ワタシ以外 忘れてしまう……


これで3度目?
になるのか……

…覚悟はしていたが

………

……寂しいものだな……)


感慨に耽っ(過去に捕われ)ていても
仕方ない……
今は 進まなくては……




「……封書を 開封しても
いいだろうか?」



ワタシは 2人に問う…



「……きみが いいと言うなら……

だいじょうぶ……

…だよね?」


「ご主人様の思うままに……」



パートナーは少し不安げにメイドは 普段と変わらずワタシに応じ(こたえ)た………



「……ありがとう」



2人に確認を取り

ワタシは封書の

封を切った………





:まずは このようなかたちで メッセージを伝える 非礼を詫(わ)びよう………




「えっ?

なにコレ……

だれも いないのに
オジサンの声が………」



「………コレも 錬金術……なのか……?」



「……このようなモノは
錬金術には………

どちらかと言えば……


魔法………?」




ワタシ達は 初めての現象に困惑した………




:……急に元の世界へ帰ることになってしまった……
そのため このようなカタチで伝言(メッセージ)を
伝えることにした…………




:このメッセージを
聞いているという事は
きみに決心がついた…
ということだな……

……それとも
ハウジングで 行き詰まっているのかな?……

いずれにせよ

……この場所で きみに託(たく)した 設計図を試すといい………


コレは わたしの邸宅を
君たちの世界の 建材 家具で 出来うる限り再現出来るモノだ………


……そのまま住んでも いい……


君たちなりに改築しても いい………




わたしの家具集めを手伝ってくれた お礼だ……


好きに使ってくれたまえ……



ハウジング好きとしては

きみ達の邸宅が見れない事が じつに残念だ………


………………


どうか 素晴らしいハウジングを……………



:………そろそろ じかんです〜〜



:あぁ わかった……



…また 会える事があったなら わたし達を 君たちの
邸宅へ招待してくれ………



ハウジング好きの……

友へ……


…………It's My Life……







………彼の言葉が終わると
開封した封書は 音も熱も無く 青暗い炎を上げ……

燃え尽きた……


後には 一片(ひとつまみ)の灰も残らなかった………



……………




今まで見聞(みきき)した事も無い現象に ワタシ達は
言葉が無かった………




「今の………なに?」



「………魔法…?

でしょうか………?」



「…………ワタシ達の世界とは 違う法則で 発動させた……錬金術………

いや……
……魔法……なのか?」




………………




ワタシ達は 各々(おのおの)考えてみたが……

けっきょく わからなかった…………





……彼の言葉を胸にしまい
ワタシは………




「………メイドさん

この設計図で 本当に家が建つのか?」



以前 彼からもらった設計図を メイドに手渡し聞いてみた……


何やら 四角い絵が描かれており 建材 家具の種類と数が記されいる………




「はい ご主人様……

この設計図が錬金術合成のレシピになります……

そして 建材と家具が
合成素材……

…と考えてください……」



「……なるほど

レシピと素材………か」



「それと もうひとつ………

家を建てるために必要な
広さの土地が必要です……」



「……もちろん 土地と建材 家具 だけでも 家を建てることは できます……

しかし……設計図(レシピ)を使ったほうが はるかに はやく 正確に ……

……建てることが できます……」



「なるほどな……


さっそくで わるいが…
始めてくれるか?………」


「わたしも 見てみたい……」



パートナーは興味津々(きょうみしんしん)だ……


錬金術で家を建てるなど
初めての機会だ……
ワタシも初めて見る……



「では……始めます……

あぶないですので
この土地の入り口まで
下がってください……」



メイドは ワタシ達を下がらせると カバンから取り出した杖で 地面に四角い
図形を描き……
周りに文字を書く……



「この 四角い図形の範囲内に
建物が顕現(けんげん)します………

けっして 近づかないで
ください……」




「……わかった

見学させてもらおう……」


「う〜ん………(~▽~@)♪♪♪

楽しぃみ〜〜♪」




「それでは……
始めます…」


ワタシ達のとなりに静かに立つと
メイドは左手に設計図(レシピ)を抱き

小声で詠唱をし
右手の杖で 空中に 何やら綴(つづ)りはじめた……



すると……

あたりが暗くなりワタシ達以外 見えなくなる…

まるで占星術グランクロスが発動したかの様だ……



……そして 先ほど図形を描いた地面に 巨大な円陣が
……ほの白く

浮かび……

ゆっくりと回り始めた……


「見て!

空に!!」


パートナーが驚きの声を上げる…



空中に 石造りのブロックが ぽつり ぽつりと現れては 落ちることなく 浮かんでいた…

……木のブロック

レンガのブロック……

木の本棚……

木のタンス……

暖炉(だんろ)……石造りの竈(かまど)……シングルベッド…等々………


円陣の回転が増すごとに

建材 家具 が 次々と
出現(あらわれ)た………



空を埋め尽くさんばかりに 建材 家具 が 浮遊する……




「建材召喚(パーツ…シュート)!!


………


建築開始(ビルド…アープッ)!!」



右手の杖が円陣の中心を差し

メイドが 高らかに宣言する……



今まで 浮かんでいた建材が 凄い早さで地面の四角い図形を埋めてゆく…


石造りのブロックは壁に…木のブロックは床に……
次々と組み上がり


下から上へと 家の形に
なっていく……



“あっ”と 言う間とは

この事か……


気が付くと ワタシ達の目前に 彼の邸宅を模した
家屋が ここにあるのが さも当然のように建っていた……



「…………おおきい…」



「…………そうだな……」


目前の壁は高く屋根が見えない…



「敷地 ぎりぎりまで 建物が占めております……
全体を見るなら 土地を拡張する必要が ありますが……」



「その件は またの機会にしよう……」



「かしこまりました…」



「なかに入ってみようよ!」


「そうだな……」



「どうぞ ご覧くださいませ……」


メイドを先頭に ワタシ達は 正面2つある入り口の左側から室内へ足を踏み入れた………



「わぁ〜!!
ひろ〜い……」


入ってみると入り口付近は広く空間が取ってあり
奥が一段高くなっている シングルベッドと机 椅子 本棚が設(しつら)えてあるのが見えた 窓も開口していて室内に十分な光を取り込んでいる……
あれは書斎…だろうか?



天井は高く 二階も あるようだ 左側の奥の壁に木の階段が見える……


左手には食堂と調理場らしく テーブルと椅子 竈(かまど)があった…



右手の壁には暖炉(だんろ)があり 赤々と薪が燃え
前に敷いてある絨毯(じゅうたん)が暖かそうに熱を含んでいた……



「………なるほど
これが 彼 の邸宅を模した家か……」



「 彼 って階段の壁にかけてある絵のひと?」


パートナーが指差した先に人物の描(えが)かれたタペストリーがあった……

顔がフードと鉄仮面で隠れた男性がピンク髪の幼女を右腕で抱きかかえている様(さま)が 描かれている……


「あのメッセージの人物……でしょうか?」


メイドが 感慨深そうに
タペストリーを見上げた……





ワタシ達は 一通(ひととお)り 室内と室外を見て回った……



「……なかなか 立派なものだな……」



「……でも お風呂が ないよ?」


「それに お料理するときに使う 水も……」


「……そうか
ワタシ達で
足りてない物を
補(おぎな)わなくては……」


「!!」


「…これが ハウジング……」



「わたしたちで かんがえて
わたしたちだけの家をつくる……」



「そうですね……

それに……
この 元になった邸宅も
増築されたみたいですね…」


天井を見上げていたメイドが指摘する……



「そんなこと わかるの?」


パートナーが不思議そうにたずねる……



「はい……
天井の中心が この場所はずれています……

この食堂のために
増築されたのかもしれません……」



「それで 正面入り口が2つに……」



「もとは右側が本来の出入り口だったのかも しれません……

あくまで わたしの推測(すいそく)ですが……」



「……… 彼 もこの邸宅を
完成させる為 色々 手を入れたのだな………」



「……そうだね

わたしたちも 完成させよう……

この 家を……」



「…… 彼 の残せし家(モノ)
………か」



「ん?

なにか 言った?」



パートナーが笑顔で振りかえる……



「……いや
なんでもない………」



「そっ……

じゃあ メイドさん

はじめよっか!」



「えぇ……

何なりと……」



こうして ワタシ達は 改築(ハウジング)に 取りかかった……………




……マイホーム その6 ー後編ー……彼の残せし家(モノ)……

……………おわり………

ある冒険者のひとりごと……19 マイホーム その6 ー前編ー

…………


ワタシ達の部屋が まだ手を入れるところはあるが 一応の完成をみた…

……ある日

ワタシ達はメイドを交え
3人で 午後のお茶(アフタヌーン・ティー)をしていた

場所は 水浴び場(プール) 給水路近く リンゴの若木(わかぎ)と ヤシの木に囲まれ 木の衝立(パーテーション)を目隠しに
チェックの絨毯(じゅうたん)を敷いた……

庭のスミである……

南国の強い陽射しを
木の葉がやわらげ
時おり吹く風が
絨毯(じゅうたん)に座る
ワタシ達の髪を なびかせ
濡れた素肌に心地よさを運んでくる……


ワタシ達は水浴びをした後
ここで お茶を楽しむのだ……



ワタシは とらじまのオニさらしと
オニパンツ……


パートナーは 青いサマートップと
メープル色のサマーパンツ……


メイドは 公国メイド服……


3人3様(さんよう)で 昼下がりを くつろいでいた……



「……ここで すごすのは
わるくないけど……

住むのは なんか……

…ちがう………」



3人で話すなか
パートナーが そう発(はっ)した……



「………?

…なにか……足りないのか……?」

「寝室も…ある

調理場も設置した……

水浴び場も完成している…

……他(ほか)に

………なにが……

…足りない?」



ワタシには パートナーの考えが わからない……



「……ふつうの家にすみたい……」



「…?………

ふ…つう……の……

家?」


……


「ここは なんか…おちつかない……」



……………



「きっと パートナー様は

屋根の ある お宅に住みたい……
……ということでは?
ないでしょうか……」


お茶の お代わりを
ワタシ達のカップに注ぎながら 自宅を管理してくれているメイドが答えた……


「そう!
わたしが住みたいのは
そういう ふつうの家だよ……」


「………屋根のある家か……

……………

…メイドさん……
近くに そういう物件は
ないかな?……」



ワタシが入手した廃墟には屋根がなかった……

そのまま改築したため
屋根の存在を忘れていたのだ………

何しろ ここは雨が降らない……
だから 青天井のまま
放置していても問題なかったのだ………




「……そう……

…ですね………

…この お屋敷の西出入り口
から 山を登ったところ
に空き地が あったと………

記憶しております……」


メイドさんは いつもの
考える仕草(ポーズ)をとり
答える……




「そんなところに!?」



「…初耳だな……」



ワタシ達は飲みかけていた紅茶も そのままに……
メイドさんに聞き返す……



「はい……
……少々(しょうしょう)
事情がありまして……」



いつもの にこやかな笑顔で答える……
相変わらず 表情の奥(何を思っているのか)が
分から(よめ)ない



「…じじょう?」



パートナーも知らないらしい……



「……その事情とは?」



「申し訳ありません……

ご主人様の ご決断が必要ですので……

これ以上は………」



メイドさんは深々と
頭を下げる……


一分(いちぶ)の隙もない
メイドお辞儀である……





……戦闘メイドに手を出しては いけない……

如何(いか)なる状況でも
即 反撃(カウンター)を
当ててくる……
たとえ 徒手空拳 寸鉄すら身に帯びていなくても……
……だ…


シュリンガー
公国メイド隊とは……


見た目と裏腹に情報収集から戦闘まで こなす
間者(スパイ)集団なのである………



……………



たんなる噂だが……





「………どうする?」

パートナーが かわいい眉をひそめ聞いてくる……


………


「……メダル……何枚必要だ……」



ハウジングに関しては
ハウジングメダルで取り引きされる……
土地の購入から家具のレシピに至るまで……
ハウジングメダルは 青石 (錬金石)と交換になっていた……



「……“頂上へ至る道”に1500枚……“山頂の空き地”に1700枚……合計で3200枚になります……」



「えぇ〜?!

そんなにぃ〜!!」


………



「ざっと…青石(錬金石)……6000ってとこか……」



「ち…ちょっと……
ほんき?」



パートナーが慌てる…

青石(錬金石)は手に入り難(にく)い……
しかも かなりの量である
だが 持ち合わせがあった……


「……よし
買おう………」


ワタシは 物に執着しない性格(たち)なので……

躊躇(ちゅうちょ)なく交換した……



「……きみは 即決(そっけつ)すぎるよ……」



パートナーのあきらめたような声が聞こえた……


ワタシ達は水着から
それぞれ 赤と青の共和国服の上下に着替え………


敷地西口に集まった…

無論ワタシが赤……
パートナーが青である……

…………



「……さっそくだが
案内してくれ……」



「では こちらへ……

お足下(あしもと)に
お気をつけ下さい……」



メイドに案内され
西出入り口を 進む……

メダルを払うまで
通り抜けられなかった
出入り口を抜けると

空は雲に閉ざされ……
かといって暗くなく

………そして


寒さは感じなかった……



「太陽は見えないのに
明るいね……」



「……そうだな…」



山道は勾配(かたむき)が
急にならないよう
少し登っては平らな道になり少し登っては……を繰り返し……楽に登ることが出来た

木の手すりが設置され
谷底(した)に 落ちることはない……


凸凹した山肌が眼下に見え
細い川が1本流れている
上流の方には小さな滝が見え 狭いながらも滝つぼ まである………



「……なかなか良い景色だな……

……購入して良かったよ……」



「ここは 風が気持ちいいね……」



ワタシ達は それぞれ感想をのべた……


登りきった所に
小さな広場があり
そこを左に進むと
目指す目的地らしい……



「……ご主人様……
ここで休憩なされますか?……

それとも このまま進みますか………?」


いつもの にこやかな笑顔で メイドが訊(たず)ねてきた…………



「……頂上に 着かないと
話してもらえないのだろ?
………事情とやらは……」


「……申し訳ありません

きまりごと(規則)ですので……」


メイドは 少し困ったように その細い眉をひそめる……



「………わかった

先を急ごう…」



「ここまで 来たんだもの

はやく知りたい!」



「では…

こちらへ……」



メイドを先頭に ワタシ達は 先を急いだ……




…………




…………………ー後編ー
へ続く………


ある冒険者のひとりごと……19 マイホーム その5

………


廃墟の改築は 続く……



「……やっぱりマーロ共和国は 暑いね……」


「……そうだな」


パートナーの ひとことに
ワタシは 相づちを返す…

寝室の石のブロックを敷いた床(ゆか)の上に木の本棚を設置し 木のタンスを置き終わった時だった……


さて 次は何を置こうか
考えていると……



「……きみは へいきなの?」


「…あ…あぁ……
特に問題ないが……」



「水浴びがしたい!!

もう 汗だくで 気持ち悪い!!」



……!!


パートナーの叫びで

ワタシは我にかえった…


そうだった…!

ワタシのパートナーは
最北の地…

シュリンガー公国の出身(で)だった……

寒さに耐性があるが
暑さにはよわい……

寒さに弱く暑さは平気な
ワタシとは真逆(まぎゃく)だったのだ………


ひとは自分を基準に
しがちだ……

いまのワタシは まさに
それだった……



「水浴び場……か……
考えてなかったな……」



「きみは いつも考えているようで
どこか ぬけてるよね……」



「………すまない…」


パートナーは肩をすくめた

白い竜が印刷されたTシャツは
汗で素肌に張り付いている………



「…ぅーん?

メイドさん……
何か妙案は ないかな?」



ワタシの隣に立つ彼女に聞いてみた……

……ピンクを基調とした公国メイド隊のメイド服を暑がりもせず着こみ
閉じてるのか開いてるのかわからない細い目を
縁なし楕円メガネで覆(おお)った……

ワタシの自宅管理人だ……


「……そう……ですね……」

右手を軽くにぎり…左頬にあて 右ひじを左手で抱く……

何かを考える
いつものポーズをとりつつ……


「まずは水源ですね…」



「…水源!?………」


「……そうか
水源か………」



「はい この建物も かつては人が暮らしていたはずです
この敷地内に水源となる
湧き水か井戸があったと思います……

しかし……」



「そんなの どこにあるか
わからないよ〜」



「そうですね…崩(くず)れたブロックの下にあるかもしれません……」



「……他に方法は ないのか?」



「………あとは……
別の場所から水を導(ひ)いてくる……ことでしょうか……」



「水をひいてくる?」



「はい…水の湧き出している所から水路を作って この敷地内に導(みちび)くのです……」



「………湧き水……か……」


どこかで見たような……
気がします…」



「ここに来る途中に……
あったよ…」



「そういえば……
山肌から湧き出していたような………」



「よし!
その土地を買い取ろう……」



「えっ!?

ほんき?」



パートナーが驚く……



「買い取るには ハウジングメダルが必要です……」



「錬金石……つかうの?」



依頼の報酬や防具の下取りで手にはいる 青い石……
なかなか貯まらないモノ……
ハウジングメダルはその錬金石1000と交換で550手にはいる……
その土地はメダル500が必要だった………



「……あぁ…本気だ
さいわい建材も大量に手にいれた……

問題ない……」


「水浴び場(プール)……
どうせ造るなら

大きなモノにしよう……

数人が入れるくらいの……」


「……庭先に転がっている
石造りのブロックを…利用して………」

「……少し高くしたほうが……いいか?………」


「……四隅に木を…植えてみよう……」


「………それから………」


……………


……水浴び場(プール)について ワタシはあれこれ考える………


………

……………


こうして ワタシ達は その湧き水の土地を買い取った……
そこに石造りのブロックで水路を作り 石橋を架け
自宅の敷地内に豊富な水を引き込んだ……

これにより いつでも水浴びが出来る……


暑さに弱いパートナーに
とっては必要な場所になった……



さて 次は 何を改築(ハウジング)しようか?………

ワタシは自宅いじりが楽しくなっていた………


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