……………




彼から受け継いだボンドを抜けて 数ヶ月が過ぎていた……


パートナーと二人で 肝試し お月見 ハロウィン とイベントを共に過ごし

いつの間にかアニバーサリーイベント準備期間を迎(むか)え その準備も終わろうとしていた……



「今年も ここにキミと来ることができたね…」



桃色(ピンク)と白で統一したセレモニアウェア上下を纏(まと)った
パートナーが会場の円形ホール内を見渡(みわた)して
感慨深(かんがいぶか)げに呟(つぶや)く



「……あぁ

今年は ふたり寂(さび)しく 壁の花になりそうだな…」



赤色と黒で纏(まと)められたセレモニアウェアで着飾(きかざ)ったワタシも この会場内を見渡す…

このアニバーサリードレスは去年のイベントで手に入れたものだ 赤 青 ピンク水色の4色全(すべ)てドレッサーに入れてある



「もぅ! キミは
すぐ そういうこと……


あっ!!

ケーキも去年のままだぁ!!」



大ホールの奥 少し高くなった壇上(だんじょう)に
巨大なケーキを模(も)したオブジェが昨年と同じく鎮座(ちんざ)し
パートナーはその元に駆け出してゆく…
ワタシもパートナーの後(あと)につづく……

準備中の会場内は去年と同じまま ケーキの上に飾り付けられた文字は“一周年おめでとう”と書かれている……
去年のあの時まま時が止まっているかのようだ……

……そういえば 去年は前のボンドメンバーと
訪れていたな……


旧メンバーと顔を合わるのが怖い……
ワタシはリーダーとしての責務(せきむ)を放棄し逃げた様なものだから………
もし鉢合(はちあ)わせたら
どんな顔をすればいいのだろう………


………わからない


答えの出ないまま時は過ぎ
会場を訪れるのが遅くなっていた……………



「ねぇ キミ……

新しくボンドに 入(はい)らない?…」



ケーキの足元に置かれた
掲示板

そこには 冒険者のメッセージ  ボンドメンバー募集のページがある
そこを閲覧(えつらん)しながらのパートナーの声だった……



「…………しかし

……また


ワタシは…………」



パートナーの誘(さそ)いに
つい しり込みしてしまう……
ワタシの不用意な発言で
メンバーに

不愉快な思いを させてしまうのではないか

あの時のように………


つい そう思ってしまうのだ…



「……まだ 気にしてる……」



パートナーは くるりと振り返った・・・
紺碧色(ディープブルー)の瞳がワタシを見上げてくる

彼女の白灰色の髪に刺した簪(かんざし)の小さな金魚

それが小さく揺(ゆ)れていた
水色の珠(たま)と小さな赤い金魚・・・

パートナーとワタシを表(あらわ)しているようだった……



「だいじょうぶ
もう一度 やり直せるよ

キミなら……」



パートナーが励(はげ)ましてくる

期待してくれているパートナー…

彼女を失望させたくない



ワタシは…………




「……そうだな

もう一度………

……やって……みるか…」



「うん

こんどは うまくやれるよ!」


パートナーの声が背中を押してくれる……

今度(こんど)は気を付けよう………

あの苦(にが)い思いは ワタシだけでなく
多かれ少なかれボンドメンバー全員が味わってしまうだろうから……



「それで……

どこに入ろうか?」



「……そう……だな……」



ワタシもパートナーと並(なら)んで 掲示板を覗(のぞ)き込む……

様々(さまざま)な ボンド名があり 簡単な紹介文が添(そ)えられてある


さて……どこに入るか……

……………

ボンド募集の更新するなかで ひとつのボンドが目にとまった


“旅する猫”

そう書かれている……



「ん?

ここ?…」



パートナーもワタシの暗緑色(ダークグリーン)の瞳が見ているモノ(ボンド名)に気付く……



「……名前が気に入った

ここにしよう……」



「…旅する猫かぁ

なんだか かわいい響(ひび)きだね

これって わたしたちみたいな感じがするよ♪」



「……ひと所(ところ)に留(とど)まれない 我々冒険者を上手(うま)く表(あらわ)しているな……」



ワタシ達は感想を述べ合う……………



「じゃあ このボンドに申請するよ…」



「……あぁ

頼(たの)む………」



ワタシ達は ボンド“旅する猫”に入会申請をした



そして………

数日が過ぎ

ワタシ達は準備の整った
アニバーサリーパーティー会場に訪れてみると
そこは すっかり様変(さまが)わりしていた……

会場内は大音量で音楽(Dance Storm)が鳴り響き
色とりどりの光が会場内を染め上げている……

窓から射していた明るくやわらかい光も今は夜の闇に包まれ
逆に会場内のカクテルライトの派手な光が漏(も)れ出し
賭博場(グレビィ・アムジェン)も かくやという不夜城ぶりである……



「すごい……

ここが あの会場?」



セレモニアウェア(ピンク)上衣とチェリーローズドロワー下衣
頭にはフェアリーゴシックのリボン 全てをピンクで揃(そろ)えたパートナーが驚きの声をあげる…



「……こいつは……

驚いた…

本当に 同じ場所……なのか?」



ワタシもセレモニアウェア(青)の上衣とリンドウローズドロワー下衣
ブルーバタフライで後ろ髪をまとめて ブルーローズクラウンを頭に載(の)せ
青で全身を着飾(きかざ)ていた

ワタシ達は最近手に入れた下衣にあわせて コーディネートしてからの会場入りだった……



「びっくりした〜
同じ場所でも
こんなに かわるんだね〜
…………………

ところで……

キミ

ボンドから返事きた?」



少し落ち着いた
パートナーがボンド入会の件(けん)を聞いてきた……



「……あぁ

入会の許可が降りたみたいだ…」



ワタシは ボンドの項目(こうもく)を確認してパートナーに結果を伝える……



「ふぅ〜ん……

30人って
ところかぁ〜
けっこう多いね…」



ワタシ達は
ボンドメンバーリストに目を通していると 見知った名前を見つけた……



「あれ?
これって あのひとじゃない?
2月くらいに“滅びの村”で出会った…」



「……たしか 空色(パステルブルー)の髪に白いシルクハットを被(かぶ)っていた……彼か……

…いや まさか………

同名別人じゃ……」



この世界には同名の別人が多数存在する……
ワタシもパートナーと同名の人物を見かけた事もある……
その姿は まったく違っていたが……

しかし メンバーリストの名前が
もしワタシ達が知る人物なら……

偶然をもたらす神は存在(い)るのかも知れない
それも 気まぐれな………


ワタシはボンド掲示板に
入会の礼(おれい)を書き込み
メッセージを白チャからボンドチャットに切り替えるこの世界の何処(どこ)に居(い)ても ボンドメンバー同志(どうし)なら メッセージを やり取りできる
便利な機能だ……


…:「……みなさん こんにちわ…」


とりあえず 挨拶(あいさつ)してみる……



…:「こんにちは」

…:「こんにちは、はじめまして」


…:「こんにちは、よろしくです」



次々と挨拶が反応(かえ)ってくる……



「……ちゃんと反応があるな…」



「いいところだね

ここならきっと

キミも やっていけるんじゃないかな?」



「……そうだな
しばらく所属してみるか…」



…:「……しばらく ご厄介(やっかい)になると思う
皆(みな)ヨロシク頼む…」

掲示板に書き込む



…:「お試しで入った方ですね。
ゆっくりしていってください。」



このボンドのリーダーから返事(メッセージ)が書き込まれる


…:「何か、わからないことがあれば相談にのります。」



「へぇ〜……
新しく入ったメンバーのこと
気にかけてくれるんだ」



ボンド掲示板を一緒に見てパートナーが感心している

…:「……ありがとう
その時は お願いする…」



ワタシはリーダーに返事を書き込む



…:「こんにちは お久しぶりです」



パートナーと話していた人物の書き込みだ



…:「……あ
あぁ……久しぶりだな…」

ワタシを知っているということは同じボンドに所属していたということ……

つまり

ワタシが まだボンドリーダーだった頃 体験入会した事もある 彼だ!

なんとゆう偶然だろう
ワタシのボンドから脱退した後 彼とは一度も会った事はないのに……



…:「こちらに、入ったんですね、ビックリです」



…:「……まさか キミがいるとは………ワタシも驚いている……」



…:「また、よろしくお願いします」



…:「……あ あぁ…こちらこそヨロシク……」



…:「…………

…:「………………

…:「……………………



それから次々と書き込まれる あいさつに挨拶を書き込み交(か)わし
ひと段落(だんらく)ついた
………………




「本当に あのひとだったね
すごい ぐうぜん…」



「……あぁ

そうだな……」



パートナーもワタシも驚きを隠せない…



「なんだか ふしぎな所(ボンド)にはいちゃたのかも……」



「……偶然(ぐうぜん)は二度もないと思うが……」



しかし……以前にも失踪したボンマスと偶然 会った事もある……
ワタシは神を信じていないが
偶然の神は存在(い)るのでは?
と思う事がある

だから二度目が無いとは言い切れない…………



「どうする?

このボンドで いいの?」



パートナーが紺碧色(ディープブルー)の瞳(ひとみ)でワタシを見上げている…



「……そうだな

しばらく このボンドに留(とど)まろうと思う……」



ワタシも暗緑色(ダークグリーン)の瞳をパートナーに向ける……



「じゃあ このボンドに決まりだね♪」



パートナーの声が弾(はず)む……

ワタシはパートナーの喜ぶ声を聞きながら このボンドに しばらく席を置くことにした…………




ある冒険者のひとりごと……26 ボンド再び ーおわりー