ある冒険者のひとりごと……10 釣りと密漁者 其の7

前回のひとりごとから…

彼から勧められた酒は
不思議な香りを放つ
強い酒だった………




「…なぁ あんた
ブクブク石 持ってないか?」



ひとしきり笑った彼が
問いかけてきた……



「…?
ブクブク石?」



ワタシは首をひねる…
聞いたことも無い
素材だ……



「……あぁ アレね……
懐かしい」



パートナーには思いあたるモノらしく
顔を ほころばせる……



「そっ アレ!!
やっぱり
わかってくれたか…」



彼も嬉しそうに 応える…


「子供のころ よく遊んだっけ………」


……

…………

………………



それから 彼とパートナーはシュリンガー公国で
過ごした子供のころの
話題で盛り上がった……


ワタシは そのようすを
眺めながら酒をチビチビとなめた……



ワタシはシュリンガー公国出身……と云(い)う事になっている………

パートナーに出会う以前の記憶が無いから……


思い出そうとするが
ぼんやりと 谷あいの村の
景色が見えたような気がするだけだった……


どんな子供だったかも
わからない………

パートナーによると
滅びの村 地下工場で
魔物からパートナーをかばって倒れたときの

加護による復活の後遺症じゃないかということらしい……


他に理由も無いので
ワタシは ソレで納得している…

たまに思い出す景色は
まだ この世界で観たことはない 旅を続けていればいずれ目にすることが
できるのだろうか?……



ある冒険者のひとりごと……10 釣りと密漁者 其の6

前回のひとりごとから…

彼はカバンから珍しい
お酒を取りだし
ワタシは ご相伴にあずかることにした…………




ワタシは彼から
一口(ひとくち)グラスを受け取り
彼から注いでもらう……

そして彼のグラスにも
薄いオリーブ色の液体を
注ぐ……
パートナーも彼から注いでもらっている……


三人のグラスが満たされたところで……

「「「乾杯!!」」」

…………

星空にグラスを高くかかげる……

そして口元にグラスを近付ける……

何とも不思議な香りだ…

……桜餅の様な

……蓬餅のような………


パートナーも不思議そうな顔をしている……

こんな香りの酒は
はじめてだ………

彼は ワタシ達の様子を
見て ニヤニヤしている…

そして彼はグラスの酒を一息に空けた……

「カッ〜〜!!
キくぜっ!!………」


「どうだい? あんたも…」


うまそうに 口元を拭(ぬぐ)う……


その様子(ようす)に ワタシも不思議な香りがする液体を口に含む……


…!!″……


何て強い酒だ!!

咥内が焼けるようだ!!

そのまま一気(いっき)に流し込む……

喉が…

…胃が……

熱い………



その様を見て 彼が大笑い
しているのが視界のスミに入った……

「…はっはっ ………
お子ちゃまには………
……少し…早かったかな……」



なおも笑い続けている……

ワタシは ( ̄ヘ ̄メ) と
しながらも 彼も かわいい笑顔をするんだな…と思った



「…ワタシはコレでも
成人の儀は受けている…」
ワタシは背が低く胸も
無いのでよく子供に間違えられるのだ……



「そりゃ そうだ
そうじゃなきゃ……
冒険者には なれないだろうよ……」



笑いすぎて出た涙を拭いながら 彼は応じる……



パートナーの方を見ると
白い肌を上気させ
夜目にも顔が赤くなっているのが見て取れた……
目の焦点も合っていないのか
ぼぅ……と焚き火を
見ている……

白灰色の後(おく)れ毛が数本…
薄紅色に染まった白い首筋に架(か)かり

幼いその姿は
艶っぽく 見えた……


ある冒険者のひとりごと……10 釣りと密漁者 其の5

前回のひとりごとから…


彼の敵意が無いことを確認すると ワタシも彼に敵意が無いことを行動で
しめした……





「……今まで 悪かったな
これは 俺の 詫びの気持ちだ……
受け取ってくれ………」



彼のカバンから取り出された物は……


“ウイリスカープ″

その数 30匹!!



「…こんなに受け取れない……」



…ワタシは遠慮した
パートナーも目を丸くする


「あんたらには これまで
迷惑をかけた……
こいつを 受け取ってくれないと 俺の気がすまねぇ……」


「頼む!!」



胡座のまま頭を下げる



彼もおそらくシュリンガー公国出身……
自分の食べ物を渡すというのは相手に対する
最大の敬意

同じ公国出身のパートナーは 彼の行為が意味することに驚いたのだ……
魚の数の多さに驚いたわけではない……
たとえ一匹でも その意味することは同じなのだ……

受け取らなければ
彼に対する侮辱になる

敬意には敬意を持って
応えなければ……



「……わかった
受け取ろう………」



ワタシは 決意した……

……………



…ワタシは彼の申し出を
受けることにした



「そいつは ありがてぇ
これで お互い怨みっこ無しだ……」

彼は 飛び上がらんばかりに喜んだ



「……せっかくだ
ここで一緒に食事でも
しないか? 素材も手に入ったしな……」



彼が驚きの表情をみせる


“同じ釜の飯の飯を食べる”

その意味することは
大きい……

お互い 仲間として認あう
事を意味していたからだ…

………

…………

彼はしばし考えた後



「わかった いただくぜ…」


真剣な面持ちで応えた……


…ワタシはパートナーに
ウイリスカープと昆布の
合成を頼んだ……


……しばらくすると
“フナの煮付け”が出来上がった……
フナを煮込んでこんぶの出汁とあわせた魚料理である


食事に掌を合わせ
箸を使って食する……



「うめぇ〜!!
こいつは なかなかなもんだ……」



彼から驚愕の声があがる


ワタシも舌づつみを打つ…
やはり最高のパートナーだ……



「こいつは 一杯やりたく
なったな……

あんたも いけるくち
なんだろ?」



ワタシはうなずく……



「そう 来なきゃ…」



彼は自分の膝を叩く



「こいつは 取って置きさ

……あんたと 酌み交わす
なら本望だろうよ…」



彼は いそいそと カバンをまさぐる……



「あった コイツだ コイツ………」



彼の手には細長いガラス瓶があった……

草原に立つ牛が描かれた紙片(ラベル)が貼られているのが
見えた……

……?



「…それは?」



ワタシも初めて目にする
お酒だ……



「コイツは魔物界でしか流通してないと言われている珍しい酒だ……

……試して見るかい?」



彼がニヤリと笑う……


…味わいたい……
どんな味が 香りが
するのだろう……

思わず 喉が鳴る……



「人の世界じゃ なかなか
お目にかかれない一品だ……
名は“ジュブルフカ”」



彼はトン≠ニガラス瓶を
目前に置いた

…ワタシは新しいモノ
珍しいモノは試さずには
いられないのだ

表面上は冷静さを装おっているが その心中は
早く呑みたくて焦っている……


「まずは乾杯といこうぜ」



彼はカバンから小さなグラスを3つ取りだし
ワタシに 1つ渡した……

ちょうどパートナーが
“サーモンカルパッチョ”と“マーリンソテー”の合成が完了し
こちらに持って来たところだった………




ある冒険者のひとりごと……10 釣りと密漁者 其の4

前回のひとりごとから…

午後の釣りを再開すると
ヒトが 針に かかっていた……



「とにかく 針を 外して
くれ
話しは それからだ…」



…ワタシは 竿を緩めると
男のほうへゆっくり近づいた……

…!!

…!!



「あ〜! お前は!!」



「また あんた達か…」



お互い これまで 何度か
出くわした事があった……

特に最初の出会いは最悪だった…



彼の掘った 落とし穴に
パートナーがはまり


“有り金 全部渡せば
彼の持つ ロープを
売ってやる” と言う…

この時ばかりは 初対面の
彼に対して凄まじい殺意を抱き 彼のロープで
彼を縛り首にして木の枝に吊るせないか?
と本気で考えたくらいだ

だが何度か彼と相対するうちに 彼も生きる為に必死なのが わかってきた…

シュリンガー公国は
貧しい……
最北の山の上にあり
年中雪の降る土地だ……
作物の育ちも悪く
山を下った草原には魔物が徘徊し
隣村への通行を
難(むずか)しくしている

食料を手に入れるのも
一苦労だ……


若者は一定年齢になると
教会で儀式を受け
冒険者として
村を追い出される……
体のいい口減らしだ…

コレも貧しい国ゆえの
苦肉の策 だろう……

冒険者として成功するのはごくわずかと聞く…

それなりの才能が必要
なのだ……


彼には その才能が無いらしい……
彼と戦ってみて それを
感じた……

ある時は技工士に
就こうとしたことも
あった……
彼には錬金術の才能も
無いらしい……


…滅びの村で
音楽祭があった時も
彼と出会った…
音楽で優勝賞金を狙うとゆう……


しかし 音楽の才能もなかった……



そして 今日久しぶりに
彼と出会った……


パンいちで手製だろうか?素朴な槍を手にしていた……………


彼に 何が あったのだろうか………




…ワタシが 竿を緩めると
彼は自分に刺さった釣り針を
苦労して外した……



「とにかく 助かったぜ
ん? どうした?
顔をそむけて…」



「その 何か着てくれないか……このままでは
話ができない……」



…ワタシだって女なのだ
異性の裸は直視できない…

パートナーは
キャー キャー 言いながら両手で顔を覆っている
もちろん 指の すき間から彼の裸をじっくり見て
いるのは言うまでもない…


「おっと こいつは
すまない……」


いそいそと服を身に着け



「さて ここからが
本題だ…」



どっかりと胡座をかいて
彼は座った……

ワタシ達も 彼の前に
座る……



「ひとつ 頼みがある……

難しいことじゃない……

…俺のことは 見なかったことにしてくれ……」



彼は話を きりだした…



「もちろん タダって
わけじゃじゃねぇ」

「あんたが釣ったキンギョ
そいつを 俺は 見なかったことにする……」


「悪い話じゃ ないだろ?」


ワタシが 釣り上げた
ワイルドキンギョ……
何か 問題があったのだろうか?



「アレは 彼女が 釣ったんだから 彼女のモノでしょ
なんか 文句ある?」



パートナーがまくし立てる

彼は それを制して



「まぁ 待て
あんたらも この上に 巫女さんが住んでるのは 知ってるだろ……」



ワタシは うなずく…

人々の一生に一度だけの
願いを 神に伝える
二人組の巫女の事は
知っていた……



「その社(やしろ)の中に
池がある……

ソコから 逃げ出したヤツなのさ…」



「つまり……キンギョの持ち主に返すべきと……」



ワタシはたずねる



「釣った魚は 釣った人の
モノでしょ!!」



声高にパートナーが
続ける……



「ソコが 問題なんだ…
逃げ出した魚の所有権は
どちらにあるのか……」


…………


「…だから 見なかったことにして
いらぬ争いを
起こさないようにと?」



「まっ そういうこった
これも 先輩冒険者からの
アドバイスってヤツだ」



パートナーは納得しかねているようだった…


無用な争いは避ける…
コレも
先人たちの知恵なのだろう……



………………



「ちょっと 冷えてきたな…あんたら “火”持ってないか?…」



彼の言う通り 少し冷え込んできた……

日も だいぶ 傾いてきている……

これは 火を起こさなければ……

…ワタシは バッグから
木の枝やトネリコの木
等を取り出す

パートナーが それらに
錬金術で火を着けると
焚き火になる

明かりと暖を これで
取るのだ……

この火おこしの錬金術すらワタシにはできないのだ……


しばらく 焚き火に あたり身体を暖めると
ワタシから口を開いた…



「…もうひとつの頼みごと
あんたを“見なかったことにする”とは……?」


暗がりのなか 焚き火の
燃える音がする……
滝からの 流れ落ちる水音は
少し怖さを感じる……


焚き火に両手をかざし
暖を取っている彼が
それに答える……



「……この際 隠しても
しょうがねぇ
あんたらとは 知らぬ仲
でもねぇからな……」



ワタシは うなずく……



「……密漁者って 知ってるか?」



……ワタシは首を振る

初めて聞く職業だ……
パートナーも知らない
らしい……



「……あんたらが知らないのも無理はねぇ………
……裏の職業だからな…」


「……裏の…職業?」



パートナーも初めて聞く
らしく おうむ返しに
口をひらく……



…!!″


焚き火にくべている
枝が はぜた…
まだ生木だったのだろう…
しばしの沈黙のあと
彼は話はじめる…



「…職業相談所でも扱ってない裏社会の仕事の
ひとつさ……」



…ワタシは 何となく
察してきた
表の職業に就けない者が
就かざる おえない非合法な職業……

アブル連邦とシュリンガー公国………
いま この2国は緊張状態にある
先の2国間の戦いで
連邦は新兵器を失い
公国は国王を失った……

こんな世界情勢だから
裏の職業にまで取り締まりの手は回らず こういった
職業はますます増えるだろう……



「俺と あんたらの仲だ
役人の世話には なりたくない……
わかるだろう?」



彼の顔に 暗い影がさす………焚き火の揺れる炎の
せいだろうか……



「……つまり 見逃せと?」


ワタシは緊張の為
汗ばんでいた

冷や汗が背中を流れる……

お互いに相手の顔から
視線を外さない


「………」

「…………」


「………オ〜ケィ
わかった……
俺の負けだ……

お互い 物騒なモノは
しまおうや……」



彼は両手をあげ
降参の意をしめした…

ワタシは 彼から視線を外さず パートナーに
彼が武器を隠し持って
いないか 身体検査を
させる……

パートナーは (≧▽≦)
キャー キャー 言いながら彼の身体をまさぐる……


彼が寸鉄帯びない事を
確認すると
ワタシは 緊張を解き
後ろ手に隠していた
短剣を鞘に納め
簡単には鞘走らぬよう
自分の右前にワタシと平行に置いた…



焚き火を挟んで彼と
対峙していたが
彼の敵意が無いことを
確認すると
彼の右側に座り直した……


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