……………




………アブル連邦とシュリンガー公国との国境沿い
その連邦(アブル)寄(よ)りに錬成施設と呼ばれる場所がありました……

ここは古代錬金術文明期に造られた
武具の研究開発をする為の施設です

ここでは武具を作るときに高温になる炉を冷やす為 豊富な湧き水を使います

その熱い排水を利用して
温泉施設が 増設さ(つくら)れました

大量のお湯が流れ込む広い木板張りの湯船
そこには 釣り場もあり ここでしか釣れない珍しい魚もいました……………



魔物の“ベルニャン″は
パートナーの“さな″と共に 錬成施設(ここ)の温泉を利用するため

久しぶりに 錬成施設を訪(おとず)れていました………


一応 連邦(アブル)領内にある施設ですので
パートナーの“さな″は
藍で染めた連邦服上下を着用し(き)ています

しかし“ベルニャン″は
黄蓮で染めた共和国(マーロ)服上下を着ていました
その袖口は赤から白に染め直しています


“クリシュナ魔王国″出身のベルニャンですが 公国服(黄)が お気に入りで
いつもアバターに着用していました………



ふたりはマウントと呼ばれる乗り物 飛行板(フライング・ボード)で 錬成施設前の階段道を施設を目指して浮き進んでいます
右手に大きな滝壺が見え
高くから大量に注ぐ水音が心地よく響いていました……………



「ベルにゃん
連邦(アブル)内では 連邦服を着たほうが良くない?」



飛行板(ボード)の前に座った“さな″が後ろに立つ
ベルニャンに問いかけます


「嫌にゃ…

ワタシは この共和国(マーロ)服が気に入っているのにゃ……

それに…冒険者は自由にゃ」



「まぁ そうなんだけど

わたしも この連邦(アブル)服
気に入ってるから着てるんだけどね♪」



「 にゃ にゃ にゃ……(笑)

“さにゃ″
温泉 楽しみにゃ」



「うん “ベルにゃん″は
熱いお風呂が好きだよね」


「そういう“さにゃ″は
温(ぬる)い長風呂にゃ」



「わたしたち いろいろ正反対だよね♪」



「だから うまくいってるにゃ……」



「ふふっ
そうかもね♪」



地面から一定の高さに浮き
前方(まえ)に進む飛行板(フライング・ボード)の上で話をしているうちに
ふたりは錬成施設に着きました…………



山肌をくりぬいて造られた錬成施設の天井は高く
中に入っても 迷宮(ダンジョン)のような圧迫感は感じられません

ふたりは 入り口で飛行板(マウント)を降りると 温泉のある奥へ進みます



「おい そこの2人

ちょっと いいか?」



黒い眼帯を右目に着けた ガタイのいい男に呼び止められました……



「にゃ?

誰にゃ……」



「え〜っと…

わたしたちの事ですか?」



ベルニャンと さな は足を止めました………



「そうだ

褐色の肌にケモ耳と尻尾を付けた お前と
ツートップにした白髪の お前だ……


オレの名は“グラック″

この錬成施設の 長(おさ)をしている……」



「……ワタシ達に

何か……用事(よう)かにゃ……」



両足を開き 右足を下げ 腰を落とし
握った両拳(こぶし)を腰元に置き ベルニャンは素手戦闘の構えを 取ります



「あの〜
錬成施設(ここ)の責任者は“スミナ″さん…では?」



パートナーの さな も初めて見る人物(ひと)に困惑しています



「まぁ 話を聞け

“スミナ″は俺の留守を委(まか)せている 一番弟子だ

この錬成施設に入れるってことは お前たち

冒険者だろ?

錬成施設(ここ)では 武器の開発 発掘 再生も してる

新しい武器に興味はないか?」



「にゃ…武器?

魔物には必要ないにゃ…」


「ん〜〜

今は 必要ないかな〜〜」



………魔物である ベルニャンは
これまで冒険者として
様々な職業(ジョブ)に就いて 剣 槍 斧 杖 弓 と扱(あつか)ってみましたが
どうも巧(うま)く取扱(つか)えませんでした

唯一(ゆいつ) 拳 が性(しょう)に あったため 拳闘士系の二次職 拳聖 に今は就いています それでも武器は装備せず素手のままです

パートナーの さな は
そんな ベルニャンを支える為 杖を使う修道士系に就いて回復と補助を担当していました………



「まぁ そう構えず 話だけでも 聞いていけ

古代錬金術文明は今より

遥(はる)かに錬金術が発展し 頂点を極めていたことは知っているな」



ベルニャンは警戒しつつ構えを解き
さな は黙(だま)って 頷(うなず)きます



「その古代錬金術文明末期に 究極の武器
“アカシック・ウエポン″
が造(つく)られたんだ

その力は 神をも殺す
とも言われている……」



「………… にゃ にゃ にゃ(笑)

神? そんにゃもの自称にゃ……

神を殺せる?

にゃ にゃ にゃ……(笑)

神を名乗る者を殺した者が 神を自称するだけにゃ…
神を殺したと
自称する者が
噂を広めただけにゃ…」



「そうかも知れん

しかし アカシック・ウエポン(コイツ)は 強力な武器には違いないんだ」



「違(ちが)いない?

はっきり しないんだね」



「きっと 偽物(にせもの)にゃ……」



「なにしろ 古い武器(モノ)でな

発掘された時には 力を失い 半壊していたんだ…

そこで アカシック・ウエポン(コイツ)の修復再生に
協力してくれないか?

報酬は 再生したAW(アカシック・ウエポン)を お前たちにやろう

どうだ? 悪くないだろ」



「どうする?

ベルにゃん

この依頼 受ける?」



「魔物は 自身の肉体を使って戦うのにゃ

……武器は必要ないにゃ

もともと 錬成施設(ここ)に来たのは 温泉に入るためにゃ
依頼(しごと)の事は忘れてのんびりするにゃ……… 」



「う〜〜ん……

グラックさん

少し 考えさせてください」


「おぅ!

気が変わったら
声をかけてくれ しばらくは 錬成施設(ここ)に いるからな…」



「……気が向いたらにゃ」



「グラックさん また今度………」


グラックに 別れを告げ
ベルニャンと さな は
温泉のある奥に向かいました………



「そういえば あいつらの名前

聞いてなかったな…

………魔物とヒトの冒険者……か
まぁ 珍しくはないか……」



グラックは ひとり呟(つぶや)きました



………冒険者の中には 魔物や悪魔……天使や妖精 幻獣の格好(コスプレ)をし それを名乗る者も います
そういう中には 本物も混じっているのかもしれません…………



グラックは むかし 魔物の冒険者に依頼され 武器類を製作した事がありました



(たしか “ルードビッヒ″とか
言ったか? あれ以来 会っていないな

今なら あの時 以上の武具を 製作でき(つくれ)るんだが……)



グラック には心残りがありました

魔物の冒険者から 武器製作依頼を請(う)けた時は
まだ AW(アカシック・ウエポン)も ウーシアのレシピは発見されていませんでした……
かろうじて ファントム・ウエポンのレシピが考案され試行錯誤していた時期です

“近々 シュリンガー公国が大きな戦(いくさ)をするのでは?″
不穏(ふおん)な噂(うわさ)が アブル連邦にも流れてきていました


魔物の冒険者は 強力な武器類を錬成施設に求め それは急を要するモノでした……

グラック は不完全ながらも完成した ファントム・ウエポン・シリーズを魔物の冒険者に渡しました

それから程(ほど)なくして シュリンガー公国が クリシュナ魔王国に
攻めこんだと錬成施設にも噂(うわさ)が聞こえてきました………

その後 グラックは 魔物の冒険者に会っていません



(……

あの時 未完成品を渡すべきでは なかった……

いや たとえ完成品だったとして 戦(いくさ)の行く末(ゆくすえ)
魔物やヒトの生き死には変わらんか… ……)



……………………………



グラックは 左目を閉じ 腕組みをしたまま 考えに耽(ふけ)りました

その横を 鉱石をいっぱいに積(つ)んだトロッコを押し魔物が通りすぎて 行きます

錬成施設では 魔物も働いています 鉱石の発掘と運搬を担(にな)い 大切な労働力です 冒険者の中には
魔物を快(こころよ)く思わない者も います
“魔物は滅(ほろ)ぼさなければならない″ そう考える者も少なからずいました
特に “シュリンガー公国″ 出身者に その傾向が強い様です
先の戦争で 魔物の国 “クリシュナ魔王国″に攻めこみ あと一歩というところで大敗を期(き)した事も関係あるのかもしれません



……………………………



「………

にゃ にゃ にゃ にゃ………(笑)

やっぱり 温泉は さいこうにゃ」



「もう ベルにゃん たら
はしゃぎすぎだよ〜♪」



しばらくすると グラックの前に 2人が帰って来ました
温泉を堪能(たんのう)したみたいです
ベルニャンは 共和国(マーロ)服(黄) さな は紫根で染めた共和国服(紫)に着替えています



「おぅ!

さっきの…

どうだ 考えは変わったか?」



「また その話かにゃ……

答えは変わらにゃいにゃ……」



「すいません グラックさん
わたし達は 今ある武具で
じゅうぶんなんです…

ごめんなさい…」



少し イラつく ベルニャンと 申し訳なさそうにする さな
対称的(たいしょうてき)な2人です……



「そうか……

ひき止めて 悪かったな


最後に 名前を教えてくれないか?」



少し残念そうに グラックは 俯(うつむ)きます



「わたしは さな

ベルにゃん…いえ ベルグニャンコのパートナーだよ」



「……いちおう拳聖をしているにゃ


ルードビッヒ
グロゥアール
ニィ
ャドゥール
ンァ
コーネリア

…………にゃ」



「 さな と ベルグニャンコ か……

何か あったら おれを訪ねて来てくれ

またな……」



「にゃ またにゃ……」



「グラックさん またね〜」


挨拶(あいさつ)を交(か)わし ベルニャンと さな は
錬成施設をあとにします



(べ=ルードビッヒ=グローアル……か

まさか アイツの子か?

いや それは 無いか……

肌の色も髪の色も違うしな……)



2人を見送った グラックは 再び隻眼を閉じ 腕を組み 考えに没頭(ぼっとう)し始めました…………



……………………………



ベルニャン と さな は
マウントの飛行板(フライング・ボード)に乗り
錬成施設を後(あと)に “広がる平原″を進みます



「ベルにゃん

温泉 楽しかったね

つぎは どこへ行こうか?」


宙に浮き前に進む 飛行板(ボード)の前に座る さな が後ろに立つ ベルニャンに問いかけます



「………そうにゃ

次は“にゃにゃ″ も誘(さそ)って3人で行ける場所(ところ)が いいにゃ……」



「そうだね “なな″ は水に入れないもんね……

ひとまず 共和国(うち)に帰ろうか?」



「やっぱり ハウジング(うち)が いちばんにゃ…」



「うん

進路(いきさき)を 共和国(マーロ)にするね」



「マーロに向けていざ出発にゃ」



「りょうかい (*^^*ゞ」



2人を乗せた 飛行板(フライング・ボード)は
“3国国境″を抜け
マーロ共和国に向けて飛び去って行きました…………………




魔物のベルにゃん その2〜ベルにゃん グラックと会う…… 〜おしまい〜