前回のひとりごとから…

午後の釣りを再開すると
ヒトが 針に かかっていた……



「とにかく 針を 外して
くれ
話しは それからだ…」



…ワタシは 竿を緩めると
男のほうへゆっくり近づいた……

…!!

…!!



「あ〜! お前は!!」



「また あんた達か…」



お互い これまで 何度か
出くわした事があった……

特に最初の出会いは最悪だった…



彼の掘った 落とし穴に
パートナーがはまり


“有り金 全部渡せば
彼の持つ ロープを
売ってやる” と言う…

この時ばかりは 初対面の
彼に対して凄まじい殺意を抱き 彼のロープで
彼を縛り首にして木の枝に吊るせないか?
と本気で考えたくらいだ

だが何度か彼と相対するうちに 彼も生きる為に必死なのが わかってきた…

シュリンガー公国は
貧しい……
最北の山の上にあり
年中雪の降る土地だ……
作物の育ちも悪く
山を下った草原には魔物が徘徊し
隣村への通行を
難(むずか)しくしている

食料を手に入れるのも
一苦労だ……


若者は一定年齢になると
教会で儀式を受け
冒険者として
村を追い出される……
体のいい口減らしだ…

コレも貧しい国ゆえの
苦肉の策 だろう……

冒険者として成功するのはごくわずかと聞く…

それなりの才能が必要
なのだ……


彼には その才能が無いらしい……
彼と戦ってみて それを
感じた……

ある時は技工士に
就こうとしたことも
あった……
彼には錬金術の才能も
無いらしい……


…滅びの村で
音楽祭があった時も
彼と出会った…
音楽で優勝賞金を狙うとゆう……


しかし 音楽の才能もなかった……



そして 今日久しぶりに
彼と出会った……


パンいちで手製だろうか?素朴な槍を手にしていた……………


彼に 何が あったのだろうか………




…ワタシが 竿を緩めると
彼は自分に刺さった釣り針を
苦労して外した……



「とにかく 助かったぜ
ん? どうした?
顔をそむけて…」



「その 何か着てくれないか……このままでは
話ができない……」



…ワタシだって女なのだ
異性の裸は直視できない…

パートナーは
キャー キャー 言いながら両手で顔を覆っている
もちろん 指の すき間から彼の裸をじっくり見て
いるのは言うまでもない…


「おっと こいつは
すまない……」


いそいそと服を身に着け



「さて ここからが
本題だ…」



どっかりと胡座をかいて
彼は座った……

ワタシ達も 彼の前に
座る……



「ひとつ 頼みがある……

難しいことじゃない……

…俺のことは 見なかったことにしてくれ……」



彼は話を きりだした…



「もちろん タダって
わけじゃじゃねぇ」

「あんたが釣ったキンギョ
そいつを 俺は 見なかったことにする……」


「悪い話じゃ ないだろ?」


ワタシが 釣り上げた
ワイルドキンギョ……
何か 問題があったのだろうか?



「アレは 彼女が 釣ったんだから 彼女のモノでしょ
なんか 文句ある?」



パートナーがまくし立てる

彼は それを制して



「まぁ 待て
あんたらも この上に 巫女さんが住んでるのは 知ってるだろ……」



ワタシは うなずく…

人々の一生に一度だけの
願いを 神に伝える
二人組の巫女の事は
知っていた……



「その社(やしろ)の中に
池がある……

ソコから 逃げ出したヤツなのさ…」



「つまり……キンギョの持ち主に返すべきと……」



ワタシはたずねる



「釣った魚は 釣った人の
モノでしょ!!」



声高にパートナーが
続ける……



「ソコが 問題なんだ…
逃げ出した魚の所有権は
どちらにあるのか……」


…………


「…だから 見なかったことにして
いらぬ争いを
起こさないようにと?」



「まっ そういうこった
これも 先輩冒険者からの
アドバイスってヤツだ」



パートナーは納得しかねているようだった…


無用な争いは避ける…
コレも
先人たちの知恵なのだろう……



………………



「ちょっと 冷えてきたな…あんたら “火”持ってないか?…」



彼の言う通り 少し冷え込んできた……

日も だいぶ 傾いてきている……

これは 火を起こさなければ……

…ワタシは バッグから
木の枝やトネリコの木
等を取り出す

パートナーが それらに
錬金術で火を着けると
焚き火になる

明かりと暖を これで
取るのだ……

この火おこしの錬金術すらワタシにはできないのだ……


しばらく 焚き火に あたり身体を暖めると
ワタシから口を開いた…



「…もうひとつの頼みごと
あんたを“見なかったことにする”とは……?」


暗がりのなか 焚き火の
燃える音がする……
滝からの 流れ落ちる水音は
少し怖さを感じる……


焚き火に両手をかざし
暖を取っている彼が
それに答える……



「……この際 隠しても
しょうがねぇ
あんたらとは 知らぬ仲
でもねぇからな……」



ワタシは うなずく……



「……密漁者って 知ってるか?」



……ワタシは首を振る

初めて聞く職業だ……
パートナーも知らない
らしい……



「……あんたらが知らないのも無理はねぇ………
……裏の職業だからな…」


「……裏の…職業?」



パートナーも初めて聞く
らしく おうむ返しに
口をひらく……



…!!″


焚き火にくべている
枝が はぜた…
まだ生木だったのだろう…
しばしの沈黙のあと
彼は話はじめる…



「…職業相談所でも扱ってない裏社会の仕事の
ひとつさ……」



…ワタシは 何となく
察してきた
表の職業に就けない者が
就かざる おえない非合法な職業……

アブル連邦とシュリンガー公国………
いま この2国は緊張状態にある
先の2国間の戦いで
連邦は新兵器を失い
公国は国王を失った……

こんな世界情勢だから
裏の職業にまで取り締まりの手は回らず こういった
職業はますます増えるだろう……



「俺と あんたらの仲だ
役人の世話には なりたくない……
わかるだろう?」



彼の顔に 暗い影がさす………焚き火の揺れる炎の
せいだろうか……



「……つまり 見逃せと?」


ワタシは緊張の為
汗ばんでいた

冷や汗が背中を流れる……

お互いに相手の顔から
視線を外さない


「………」

「…………」


「………オ〜ケィ
わかった……
俺の負けだ……

お互い 物騒なモノは
しまおうや……」



彼は両手をあげ
降参の意をしめした…

ワタシは 彼から視線を外さず パートナーに
彼が武器を隠し持って
いないか 身体検査を
させる……

パートナーは (≧▽≦)
キャー キャー 言いながら彼の身体をまさぐる……


彼が寸鉄帯びない事を
確認すると
ワタシは 緊張を解き
後ろ手に隠していた
短剣を鞘に納め
簡単には鞘走らぬよう
自分の右前にワタシと平行に置いた…



焚き火を挟んで彼と
対峙していたが
彼の敵意が無いことを
確認すると
彼の右側に座り直した……