魔物のベルにゃん そのいち… お正月 〜後編の2〜

……………



ベルにゃん と さな は
ももか と すもも を山頂(さんちょう)にある 屋根のある自宅(じたく)に招(まね)き入れました………



「お帰りなさいませ……
ご主人さま…

ももか さま…すもも さま」



「ももか!すもも!
ようこそ わたしたちの家(いえ)に!!」



メイドのナナと ベルにゃん のパートナー さな が
3人を迎(むか)え入れます



「ただいまにゃ……

にゃにゃ……

さにゃ……」



「おじゃましま〜す
( ̄▽ ̄;)」



「一晩(ひとばん)…やっかいになるわ」



石造りの壁に木材のブロックが床を埋め 奥には左側の木の階段を登って二階に上(あ)がれるようです



「ひろいね〜
ヽ( ̄▽ ̄)ノ
すもも…」



「………!!

……間仕切(まじき)り壁(かべ)がないわ!

だから広く見える

つまり……大きな1部屋(ワンルーム)!!」



「うんうん
ベルにゃん家(ち)はすごいね〜

…………

……ベルにゃん?」



ももか が となりに居(い)たはずの ベルにゃん が
いないことに気付きました


「あっ! ももか
ベルにゃん なら
あそこだよ」


ももか の疑問(とい)に
さな が指差します……

入って右側の壁で暖炉(だんろ)が赤々(あかあか)と燃え 屋内(おくない)を暖(あたた)めています
その前には 四角い絨毯(チェックのカーペット)が敷(し)かれ
カラーブロックと白い長椅子(ソファー)が 周囲(まわ)りを囲(かこ)み
冷えた身体を暖(あたた)めながら談話(だんわ)できるようになっていました……

いま ベルにゃん は絨毯(カーペット)の上で 目を閉じ身体(からだ)を丸め
暖(だん)を取っていました
その頭のネコ耳が ときどき ピクリと動きます…
ももか達は ベルにゃん を囲(かこ)んで絨毯(カーペット)の上(うえ)に座りました………



「ベルにゃん ねた〜
( ̄▽ ̄;) 」



「わたしたちを前に しつれいね……

これだから魔物は………」


「すもも〜
ベルにゃん は寒いのが
苦手なんだよ

暖(あった)まったら
起きてくるから…」



さな がフォローします



「ベルにゃん って
ネコみたいだよね〜
(*´∇`*) 」



「う〜ん……

そうかな?

ベルにゃん は
ベルにゃん だよ」



「しょせん魔物……
かわりないわ……」



「ベ〜ルにゃん

( ̄∇ ̄*)ゞ なでなで…」


「ちょ……
ももか!
やめなさいよ!」



ももか が ベルにゃん の暗緑色(ダーク・グリーン)の髪を撫(な)で始めました


「……!!
うそ……ベルにゃんが
わたし以外に……」



さな が驚(おどろ)きます
ももか にたいして
ベルにゃん が
まったく警戒(けいかい)していないからです



「すもも も なでてみない?
気持ちいいよ〜

( ̄▽ ̄;) 」



「いやよ!
魔物を さわるなんて…」



「……それが ふつうの反応にゃ」



ベルにゃん の暗緑色(ダーク・グリーン)をした目が開(ひら)きました……



「ベルにゃん おきた〜
( ̄▽ ̄;)/ 」



「……あの〜

ご主人さま さな様(さま)

もうすぐ食事の準備ができます

……どう……しますか?」



遠慮(えんりょ)がちに
メイドのナナが聞いてきました



「そろそろ わたしの 合成 も 終わるよ〜」




………ふぁ〜〜〜



そうにゃ〜……


みにゃ 暖炉(だんろ)の前に
集まっているのにゃ……


ここで 夕食にするにゃ…」


欠伸(あくび)をひとつ
大きく伸びをすると
ベルにゃん が起き上がりました



「かしこまりました

こちらに お持ちします…」


メイドのナナが 台所(キッチン)に用意してあった
食器類を 暖炉前にテキパキと運びます



「ディナーセットの
合成が 終わったよ

取り出すね」



さな が錬金術合成空間から 絨毯(カーペット)の上(うえ)に4人分のディナーセットを並(なら)べます



「根菜(こんさい)のスープ
も ありますよ〜」



メイドのナナが 台所(キッチン)から運んできた鍋(なべ)を
絨毯(カーペット)の側(そば)に置いた鍋しきに載せ
蓋(ふた)を開けました

室内(あたり)に微(かす)かな香草(ハーブ)の香りが拡散(ひろ)がります

昆布と魔物の肉を煮込んだ鍋に
刻(きざ)んだ ジャガイモ ニンジン オニオン が中(なか)で踊っているのが見えました……



「みなさま……どうぞ」



メイドのナナ が飲み物をそれぞれの手にした 足つきグラス(ピルスナー)に
注(そそ)いで廻(まわ)ります



「!?
この 泡(あわ)のでる水
サクラの香(かお)りがする Σ( ̄□ ̄;) 」



「!!

………

これは……?」



「それは……

炭酸石とサクラの花を
入れた 水……です

ももか様が サクラが好きと さな様より聞いていたので………」



驚く ももか と すもも に
メイドのナナが説明します


「流石(さすが)はナナにゃ…」



「あ…ありがとうございます……」



ベルにゃん に誉(ほ)められて メイドのナナは照れたのか お盆を胸元で抱きしめています



「みんなに グラスが行き渡(わた)ったみたいだね

……ベルにゃん♪」



「それじゃあ……

乾杯にゃ」



「「「かんぱい!!」」」



さな に促(うなが)されて
ベルにゃん はグラスを掲(かか)げ 皆(みな)も それに続きました………



暖炉(だんろ)前の絨毯(カーペット)の上(うえ)に座(すわ)って
4人は食事を始めました



「みなさま……
おかわりも あります
どうぞ お申(もう)しつけください……」



メイドのナナが給持(きゅうじ)を務(つと)めます
談笑(だんしょう)しながら食事が続きます………


……………………………



「…………

それでね〜
ベルにゃん わたしたち王族に なったんだよ〜
( ̄▽ ̄;) 」



「共和国(マーロ)の リンドウ王と婚約でも したのかにゃ?」



「違うわよ!!

魔物神父と この国の大臣が起こそうとしたクーデターを
リンドウ王の目前(もくぜん)で 防(ふせ)いだからよ!!」



ベルにゃん の言葉に すもも が激(はげ)しく反論(はんろん)しました



「へぇ〜 そんなことが
あったんだ〜

国の危機(きき)を防ぐなんて
伝説の勇者みたいだね」



「にゃるほど それで王族に……

それで ももか達は王族として この国(マーロ)に留(とど)まるのかにゃ?」



「う〜んとね
( ̄▽ ̄;)
誘(さそ)われては いるんだけど……

いまは公国(シュリンガー)の ナギさんからの 依頼の途中だし……

このまま冒険者として旅を続けるよ
σ( ̄∇ ̄;) 」



「せっかく リンドウ王からここ(マーロ)に土地と居住許可を もらったのに……

ももかったら……」



「ここの王様
チャライけど

いい人だよね〜
( ̄∇ ̄*)ゞ 」



やがて食事も終わり
食後の お茶をメイドのナナが各自に注(つ)いで回ります
カップを満たしているのは香り高い緑茶でした………



「あの……
ご主人さま……

お風呂の用意ができました……」



メイドのナナが ベルにゃん の傍(そば)で囁(ささや)きます
給持(きゅうじ)の 合間(あいま)に お風呂(ふろ)に水を張(は)り 薪(まき)で沸(わ)かしていたのでした……



「ももか…すもも……
先に お風呂で温(あった)まってくると いいにゃ」



「うん ( ̄▽ ̄)
そうする」



「先に入るけど 覗(のぞ)かないでよ!」



「にゃ?

……………………

覗(のぞ)いてほしいのかにゃ?」



「そんなわけ ないでしょ!
バカ魔物〜〜!!」



「え〜〜
( ̄▽ ̄;)
ベルにゃん も 一緒(いっしょ)に 入ろうよ〜」



「ちょっと ももか!!」



「………………………


にゃ そういえば………

風呂桶(ふろおけ)は
3×3ブロックしか無いのにゃ……
一人(ひとり)づつ浸(つ)かる事を おすすめするのにゃ……」



「ちぇ… ( ̄∇ ̄*)ゞ 」



「ももか が先に入(はい)って……
わたしは その後(あと)に……」



「じゃあ すもも いっしょに はいろ
( ̄∇ ̄*) 」



「え? ちょっと……」



「 いいから 早く 早く
ヽ( ̄▽ ̄)ノ 」



すもも の手を ももか が引っ張ります



「お風呂(バスルーム)は
こちらです…」



メイドのナナが パーティション二枚で目隠(めかく)しされた 屋内(おくない) 左奥(ひだりおく)へ 二人を案内します



「わたしたちは 後片付けだね♪」



「ももか達が 上(あ)がってくる前に おわらせるにゃ…」



「すご〜い (m'□'m)

窓から サクラが見える!」


「……ももか!

ちゃんと肩まで 浸(つ)かって!!」



「…………

ももか様 すもも様……

湯かげんは よろしいですか〜〜」



お風呂場(バスルーム)から にぎやかな声が聞こえてきます…………



ベルにゃん と さな は
積み重ねた皿やグラスを 外の水汲(みずく)み場まで運び 洗い始めました

近くに立つ背の高い街路灯(がいろとう)が
昼間取り込んだ太陽の光を 中に設置(おさ)められた夜光石(やこうせき)を通して庭を照らしています

夜空を覆(おお)う無数の星明かりと庭に立つ1本の街灯の光が 皿を洗う二人を静かに見守っていました………………



「ねぇ ベルにゃん…

ももか の言っていた公国(シュリンガー)のナギさんって……
いま行方不明になっているドレイク王の代理だよね?」



ベルにゃん と洗い物をしながら さな が聞いてきます



「そうにゃ
ニャギは
公国(シュリンガー)メイド隊のリーダーにゃ……」



「そんな 偉いひとから依頼を受けるなんて…

ももか すごい!!」



「………………

そのことにゃ………

ももか達に対(たい)して
一国(いっこく)の代表としての依頼にゃのか……

ニャギ個人の依頼にゃのか……

……………

その依頼の途中で にゃぜ
共和国(マーロ)に………」


ベルにゃん は難(むずか)しい顔をして洗い物をしています……



「きっと ももか達に とって必要なことが あったんだよ!


…………わからないけど」


「にゃにか………

大変(たいへん)な事に 巻き込まれて いにゃければ ……にゃ……」



「ももか達なら だいじょうぶだよ きっと……

それに
ももか達が困(こま)っていたら……

ベルにゃん は たすけるんでしょ?」



「もちろんにゃ

親友(とも)は見捨(みす)てにゃいのにゃ……」



「うん!

もしもの時は ももか達 ぜったい
たすけよ」



「もちろんにゃ」



話しているうちに洗い物が片付(かたづ)いたようです


「おわったね

もどろう?」



「ワタシ達も お風呂で
温(あった)まるにゃ……」


「うん♪」



ベルにゃん と さな は
水汲(みずく)み場を 後(あと)に 屋内へ戻って行きました………………





魔物のベルにゃん そのいち… お正月 〜後編の2〜おわり 〜後編の3〜へ続きます…………

魔物のベルにゃん そのいち… お正月 〜後編の1〜

……………



山頂にある 屋敷(いえ)に向かうため“ベルにゃんとさなのへや”の敷地(しきち)を後(あと)に

4人は“山頂へ続く道”に足を踏(ふ)み入れました………

山肌(やまはだ)に沿(そ)って道が山頂(さんちょう)へと続いています
太陽(ひ)が傾(かたむ)き
空が橙色(オレンジ)に染(そ)まっていました………


「ワタシが先頭 ももか すもも さな……の順で いいかにゃ?」



「いいよ〜」
( ̄▽ ̄*)/ 」



「ちょっと魔物!
わたしと ももか の順を 入れ替えなさいよ!」



「にゃにか 問題かにゃ?」


さっそく もめているようです…………



「え〜
すもも なんで?
( ・◇・)? 」



「ももか が魔物の後ろでも
あんしんできない!

わたしが ももか を守るんだから!!」



「…………わかったにゃ


ワタシ すもも ももか さな の順(じゅん)で いいかにゃ?」



「それで いいわ
少しでも 変な素振(そぶ)りをしたら………

後ろから………

斬る!!」



「……おっかにゃいにゃ〜」



「えぇ〜〜〜!?
Σ(´□`;)

ダメだよ すもも〜

ベルにゃん を斬っちゃ…」


「ももか……

相手は魔物

けっして気をゆるしては

だめ…」



ももか の前に すもも が出て ベルにゃん を睨(にら)みます



「ベルにゃん なら だいじょうぶ

ももか達を傷つけたりしないよ……

ねっ!」



最後尾(さいこうび)の
さな から 信頼(しんらい)に満ちた声が聞こえます………


「もちろんにゃ
さにゃ……

友達(とも)を傷つけたりしにゃいにゃ……」



すもも に背中を見せ ベルにゃん は歩き始めます



「どんな理由が あろうと
魔物とは 仲良く できない……」



「すもも〜〜

ベルにゃん となら仲良くなれるよ (^^)d 」



すもも ももか が ベルにゃん の後(うしろ)に続いて歩き出します



「ひと と魔物でも なかよく できるんだよ……

すもも にも いつか
そんな日が
来ると いいな……」



最後に さな が続きます……



「そんな日は こない……

たぶんね……」



「すもも って頑固だよね〜
( ̄O ̄;) 」



話ながら 4人は山道を登ります 少し歩いては階段
少し歩いては階段で 徐々(じょじょ)に高く登っていきます……

太陽は山の向かうに隠れ
だんだん 辺りが暗くなってきました



「まだなの?
魔物……

…………!

わたし達を 騙(だま)してるんじゃ……」



「ベルにゃん……

ちがうよね……

(;゜Д゜)) 」



すもも の言葉に ももか は不安に なります

何しろ 初めての場所です
辺りは暗く 気温も下がり 肌寒くなってきました…

暗がりのなか 近くに滝があるのか 激しい水音(みずおと)が 響(ひび)いてきます…………



「……ももか……すもも……

もうすぐ 頂上にゃ……」



「魔物の 言うことなんて…

信じられない!」



「すもも〜〜

ベルにゃん のこと
信用(しんよう)しようよ〜
( ̄▽ ̄;) 」



「すもも……ももか……
ほんとうに もうすぐだから………」



山道を登りきると 開(ひら)けた山の頂(いただき)に
満天(まんてん)の星空が広がっていました……


星明(ほしあ)かりの中(なか) レンガのブロックとステンドグラス・ブロックを組み合わせた門柱(もんちゅう)が
4人を出迎(でむか)え

石造りのブロックを積(つ)んだ巨大な壁が視界(しかい)をふさぎ
屋敷(いえ)全体が見えません……



「………おおきいね
(@ ̄□ ̄@;)!! 」



「………………

これが 魔物の……いえ……」



ももか と すもも は
圧倒(あっとう)されて いるようです



「こっちにゃ……」



二本の常緑樹の間を抜けると右手に入り口があり 壁に置かれたランプの中 夜光石(やこうせき)が
橙色(オレンジ)の光を灯(とも)していました………


「 Σ( ̄□ ̄;)

ベルにゃん サクラ!!」



「ここにも サクラが……」


建物(いえ)が建つ 敷地(しきち)の角(かど)に サクラの木を 見つけて
ももか と すもも が
声(こえ)をあげます………



「にゃ?

サクラが気になるのかにゃ?

ももか……」



「うん……

サクラ だ〜いすき
(≧▽≦)/ 」



「庭は 広くないにゃ

さな と一緒(いっしょ)に
廻(まわ)ってくると
いいにゃ……」



「 Σ(´□`;)
えぇ〜〜

ベルにゃん も
いっしょに来(き)てよ!」



「ももか を 魔物と二人きりにはできない……

わたしも行く!」



すもも が ももか の前に出て 腰に差した片手剣の柄(つか)を握(にぎ)ります………



「すもも〜

すぐに剣を にぎるのは やめようよ
(* ̄∇ ̄)ノ 」



「にゃ……

すもも………

ももか 守るため……

警戒心(けいかいしん)は そのくらい あったほうが いいのにゃ……」



「………魔物に

……言われるまでもない」



すもも は剣の柄(つか)から その右手を離しました………



「ベルにゃん 家(さき)に
入ってるね」



「さにゃ………

案内したら すぐに行くにゃ……」



すもも と ベルにゃん のやり取りに
安堵(あんど)した さな は邸内(いえ)に 入って行きました……………



「ももか……すもも……

こっちにゃ

早く廻(まわ)って家(なか)に 入るにゃ……」


ベルにゃん は 共和国服(黄)の上下を着(き)ていました 共和国(マーロ)が南に位置するとはいえ 1の月の夜は 冷えます
山頂にある この場所は さらに寒く感じるのです



「ベルにゃん

何本くらい あるの〜?

(´・ω・`)? 」



「そうにゃ〜

5,6本は あると思うにゃ……」



「魔物……

これは?」



「そこは 水汲(みずく)み場にゃ……
調理に使ったり
洗い物をしたりする所にゃ……」



「ほんとだ
白いお皿が置いてある〜
ヽ( ̄▽ ̄) 」



石のブロックを組み合わせた囲(かこ)みの中に
湧(わ)き水が貯(た)めてあります
ブロックの上に
取り込み忘れたのか
白いお皿が積み重ねたまま置いてありました…………



「……!!

魔物でも薪割(まきわ)り をするのか……」



切り株(きりかぶ)に手斧(ハンドアックス)が突き刺さっているのを すもも が見つけました



「暖炉(だんろ)にくべるための薪(まき)にゃ……

石造りの竈(かまど)にも使うのにゃ……


にゃ!
……先を急ぐにゃ…」



材木(ざいもく)が積(つ)んである庭の角(かど)を曲(ま)がり
ベルにゃん は先(さき)にすすみます………



「こっちにも 入り口が
あるんだ……

ここにも サクラ!!」



「そにょサクラは
家屋内(なか)からも
見えるのにゃ」



「お〜〜
Σ( ̄□ ̄;)
………」



「なかなか すてきじゃない……」



……………………



ベルにゃん は ももか と すもも に建物の周囲(まわ)りを次々(つぎつぎ)と 案内していきます………



「ベルにゃん

(丿 ̄ο ̄)丿 あれは?」


「あの階段を 登(のぼ)ると屋根(やね)に 上(あ)がれるにゃ」


「へぇ〜 ヽ( ̄▽ ̄)

のぼって いい?」



「あぶないよ ももか…


見たところ レンガづくりの屋根みたい だけど

大丈夫(だいじょうぶ)でしょうね 魔物?」



「100人乗っても とは
言わにゃいが
もちろん大丈夫にゃ

屋根に登るのは また今度にゃ」



「は〜〜い
( ̄∇ ̄*)ゞ 」



…………………………



「サクラ!!
(丿 ̄ο ̄)

あそこにも………」



敷地(しきち)の角(かど)に一本 サクラ が植(う)えてあり その根元(ねもと)には 赤い布を掛(か)けた木製の縁台(えんだい)が2つ……
それに 四角いチェックの絨毯(カーペット)が 敷いてあります
それ以外 遮(さえぎ)るモノはなく
遠くには降(ふ)りそそぎそうな星空を見ることができました……



「………すごい」



「 (m'□'m) ………」



すもも と ももか は
その景色(けしき)に言葉を失いました…………



「ここで こころゆくまで
花(サクラ)を見にゃがら…
ゆっくり……できる…

にゃ…

にゃ……

にゃくしょん!!」



「ベルにゃん が くしゃみした〜
( ̄▽ ̄;)\ 」



「ちょっと……

だいじょうぶなの

魔物……」



「さすがに 冷えてきたにゃ………

そろそろ 屋敷内(なか)に
入るにゃ……」



「ベルにゃん の お家(うち) なかは どんなだろうね〜
( ̄▽ ̄;) 」



「寒くなってきたわ……

ももか
わたしたちも入ろう?……」



「にゃ!

ようこそ 我が家へ (-.-)
…にゃ」


ベルにゃん は ランプの灯(とも)った入り口で
執事お辞儀(じぎ)をして
ももか と すもも を
自宅に迎(むか)い入れました……………………



魔物のベルにゃん そのいち… お正月 〜後編の1〜おわり〜
後編の2へ続きます……



…………………………

魔物のベルにゃん そのいち… お正月 〜前編〜

……………


ここは ある冒険者によく似た人物が冒険している世界………

褐色の肌に濃緑色(ダーク・グリーン)の髪と瞳を持つ少女が

白い肌と灰白色の髪に 紺碧色(ディープ・ブルー)の瞳を持つ 幼い少女をパートナーに世界を旅していました……


主人公の名は ベルにゃん・White……
頭にネコ耳と おしりにネコ尻尾(しっぽ)を持つ魔物です………

パートナーの名は さな……
公国(シュリンガー)出身の普通の女の子です

いろいろあって二人は旅を続けています……



……………



………ある日

魔物のベルにゃんとパートナーの さな は共和国(マーロ)にある自宅(ベルにゃんとさなのへや)に居(い)ました

ここは ふたりでZellを貯め 廃墟(はいきょ)を土地ごと買い取り 少し改築して自宅にしていました……
魔物であるベルにゃんを受け入れてくれる国は
ここしか なかったからです…………


そして 冒険をしない時は
自宅(ここ)で くつろぐのです……

いまは “お正月” と呼ばれる月……

“ベルにゃんとさなのへや”も “カドマツ” “シメナワ” “カガミモチ” と呼ばれる家具を配置(はい)して “新年” を迎(むか)えました……

遠い東の海に浮かぶ島国では こういった家具を部屋に飾り 家族と過ごす……らしい…と本で読んでいたからです

アルスト文字に訳された
本のタイトルは “東海島伝聞録”………

遠い異国の地の事を 人伝(ひとづて)に聞き記(しる)した貴重な本です
……ただ誤訳や 聞き違いも あるため 正解さには欠けているのですが……

珍しい風習(ふうしゅう)も記されているので
好奇心旺盛(めずらしものずき)な ベルにゃんは それを真似てみたのです………


「…ベルにゃん

きょうも いい天気だね…」



パートナーの さな が
細く白い膝の上に濃緑色(ダークグリーン)の髪をしたベルにゃんの頭を乗せ

その頭を白く小さな手で撫(な)でながら つぶやきます…


「……そうにゃ

風も気持ち いいにゃ…」



さな の膝(ひざ)もとで
身体を丸くし 気持ちよさそうに目を閉じた ベルにゃんが答えます……

南国のマーロ共和国ですがこの時期は暑さも遠のき
日差しは温かく
過ごしやすいのです


石造りのブロック 草のブロック カラーブロック(緑) ステンドグラスブロックを組み合わせた屋根…
そこに
赤く大きな野点傘(のだてかさ)を置き
傘の足元に座っていると

…つい うとうと…ふねをこぎはじめます………


……………



「……誰か

来た みたいにゃ…」



ベルにゃんの頭のネコ耳がピクリと動きました……………



…………………

……………

ベルにゃんの所有する土地
“水路と石橋”

ここは山肌から湧き出す水を
“ベルにゃんとさなのへや”にある水浴び場(プール)に引き込むために買い取った場所です

この場所の石のブロックを積(つ)んだ橋の上に 訪(おとず)れた人影が二つありました………



「……ねぇ

やっぱり やめよう?

ここ 魔物の住みか……でしょ?……」



「だいじょうぶ

ベルにゃん に会いにきただけだよ」



「だって……魔物…」



「ベルにゃんは いい魔物(ヒト)だよ……」



「わたしたちは 冒険者……
魔物は…討伐(とうばつ)しなきゃ………」)



「いい魔物も いるよ…

共和国(マーロ)で助けて
もらった……」



「それは……

そう……

だけど……」



「あっ!

サクラだ!」



「……………!!

きれい……」



水路と石橋の入り口 左にに植えてある2本のサクラに気づいたみたいです
二人は しばらく見とれていました………



………………



“ベルにゃんとさなのへや”の敷地 その入り口に話し声が近づいて来ます………



「……さにゃ

知り合いみたいにゃ…

ちょっと行ってくるにゃ…」



さな の膝元(ひざもと)で欠伸(あくび)をひとつすると
大きく伸びをして
ベルにゃんは立ち上がります

そして……
ブロック7つぶんの高さのある屋上(おくじょう)から
ひらりと とびおりました


「ちょっと……

まってよ ベルにゃん!

わたしも行くよ」



ベルにゃんを屋上から
見おろし さな が声をかけます…



さな は石造りの階段を かけ降りて
ベルにゃんに追いつきます


二人は まっすぐ進み
左に曲がると 木材とカラーブロックを組み合わせた小さな舞台があります
そこに設置(お)かれた木の階段を登(のぼ)ります

そうすると 黒い柵の切れ間に 石のブロックと草のブロックで作られた入り口が見え……
そこに 二人連れの女の子が入って来ました……



「なんだか 和風だね〜」



「 家具の“カドマツ”が
置いてある…

建物の入り口?

上に“シメナワ”も
提(さ)げてある……

あれって こう使うの?…」


二人連れの会話が聞こえてきました……



「アケマシテ オメデトウにゃ
ももか……」



「明けましておめでとう!
ももか!! すもも!!」



ベルにゃんとパートナーの さな が来客の二人連れに新年の挨拶(あいさつ)をします



「あっ ベルにゃんだ

あけおめ〜」



「さな…明けましておめでとう…
今年も よろしく…」



ももか と そのパートナー すもも も あいさつを返します……



「……立ち話(たちばにゃし)
も にゃんだし……

あちらで 座って話さにゃいかにゃ……?」



「そうだよ!

すもも ももか

お茶に しよ?」



四人は 建物の正面入り口前で話しています
すもも の言ったとおり
建物の正面右側に“カドマツ”が ひとつ置いてあります……
建物入り口を見上げると 幅(はば)ブロック二つぶん…高さブロック6つのレンガ屋根に“シメナワ”が
ひとつ右よりに提(さ)げてあります………


四人は敷地の右すみに設置された喫茶コーナーに移動しました

植えられたリンゴの木の根元(ねもと)に周囲からの目隠しにパーティション二つと
レンガとステンドグラスブロックを組み合わせた柱…
足元には四角い絨毯(カーペット)が敷いてあり 履き物を脱いで上がる様です……


入り口はブロック ふたつ分(ぶん)の隙間(すきま)がありますが 一人づつ入ることになります

まず ベルにゃんが入ります



「……ももか
お手をどうぞ……にゃ」



「ベルにゃん…」



その手を ももか が取ろうとしました……



「ちょっと……わたしの ももか に近づかないで……
魔物!」



カーペット上のベルにゃん
外(そと)の ももか…

その ももか の前に パートナーの すもも が割り込んで 立ち
中(なか)のベルにゃんを威嚇(いかく)します…

すもも は左腰に差(さ)した 片手剣に右手をかけ

左手の盾を構え自分を守りつつ いつでも抜刀できる 構(かま)えです



「……にゃにも しにゃいにゃ……茶飲み話をするだけにゃ…」



ベルにゃんは 涼しげな顔をして立っていますが
そのしっぽは 警戒(けいかい)のため 左右に揺(ゆ)れています

腰に差(さ)した片手剣に
右手は触(ふ)れては いませんが
左足は静かに後ろに下がり いつでも剣を抜(ぬ)ける構えです……



「今日(きょう)こそ……

わたしの剣のサビに……

なれ!!」



「……剣が錆(さ)びては
斬(き)れませんにゃ…」



一触即発(いっしょくそくはつ) とは この事でしょうか……



「ちょっと すもも〜
おちついて…」



「ベルにゃん……
やめてよ!」



お互いに 相方(あいかた)を止めようと声をかけますが
黙(だま)ったまま
二人のにらみ合いは続きます

…………

時折(ときおり) 吹く風が
枯れ葉を一枚 二人の間(あいだ)に 運んできました…


………!!



紫電一閃(しでんいっせん)

二人の抜刀は
閃(ひらめ)く雷(かみなり)のごとき

目にも止まらぬ速さで 剣は抜かれ

互いの刀身が
ぶつかり合い

火花が飛び散りました……


「……にゃ

…にゃ

にゃ♪」



二度! 三度!……と ベルにゃんは 右手の片手剣で すもも に斬りつけます

魔物の性格(さが)なのでしょうか
ベルにゃんは戦いを楽しんでいる様(よう)です……



「くっ!!

やっ!

くっ……」



対して すもも は 左手の盾(シールド)で 受け
右手の 片手剣で斬りつけ 盾で受けるを繰り返します

斬り結ぶ二人は いつのまにか 石造りとカラーブロックで組み上げられた
水浴び場(プール)の前に
移動していました……

リンゴの木が影を落とす
青と砂のブロックの上
二人は 剣を振(ふ)るいます…………



「にゃ?

どうしたにゃ?

そんな腕では 剣にサビは つかないにゃ……」



「……へ 減らず…ぐち……」



余裕のある ベルにゃん に対(たい)して すもも の息があがっています…


と そこに……

何(なに)かが ベルにゃん
に 飛(と)んできました

すもも を相手に片手剣を振るいつつ
空(あ)いている左手で
ベルにゃん は 視線を向けることなく
叩(はた)き落としました


「………興(きょう)が 削(そ)がれたにゃ……

今日(きょう)は もうやめにゃ……」


叩(はた)き落とした ティーカップに続いて
飛んできた カップ・ソーサーを振り向いて剣で叩(たた)き割り
ベルにゃん は剣を納(おさ)めます



「…ま……まだ…………
勝負は……ついて……ない…………」



片手剣を杖代(つえが)わりに すもも が肩で息をしています……



「…ちょうど メイドも
到着(つ)いたようだにゃ……」



「……め………いど?…」



怪訝(けげん)がる すもも を背中(せなか)に
ベルにゃん は顔に 飛んできた 本を 僅(わず)かな動作で避(さ)けます……



「……お茶とお菓子の 到着(とうちゃく)にゃ…」



「あわわ……
もうしわけ ございません
ご主人さま……

探し物を していたら つい……」



白いエプロンに 紫色の長袖エプロンドレス…

金属色のカチューシャとアンテナを頭に乗せた
華奢(きゃしゃ)な女の子が“あわあわ” しています……



「…ニャニャ……探し物を するときに
物を投げるのは やめるにゃ……」



「あっ!

ナナ!!

ちょうど いいところに!」


さな が安堵(あんど)の声を あげます……



「その人は〜? ('_'?)」



興味深(きょうみぶか)げに ももか が訊(たず)ねます……



「あっ!
みなさま…
メイドどうも……

わ…わたくしは ティ…

いえ ナナ…

この屋敷に お仕(つか)えする

メ…メイドです……」



さいごに彼女は
丁寧(ていねい)な メイドお辞儀をしました……

黄金(こがね)色に輝く髪が膝裏にまで のび
前髪が両目を隠して
表情は見えませんが 幼(おさな)さを感じさせます…年の頃(ころ)は11才……くらい…でしょうか……



「ナナ どうして ここに?」


さな が不思議そうに訊(たず)ねます



「は…はい さな さま……
ご…ご主人さま より アフタヌーンティーの準備を
…もうしつかり
こ…こちらに お持ちしました…です……」



メイドのナナの腕にバスケットが見えます



「やった〜
ナナの作る お菓子
大好きなんだ…

わたしの合成とおなじものなのに……
どうしてだろう?」



「そ…それは わたしの作る物が 錬金術合成 では ないから…では?…だと思います…です」



「そこが わからないんだよ…
料理もお菓子も合成で
作るものでしょ?
……その 調理?……ってのが わからないんだよ…」


「そ…それは……ですね…」



メイドのナナが説明しますが さな達には理解できないようなのです

全てのモノが 錬金術のレシピと素材を合成することで作れる世界……

ここでは調理という概念(がいねん)が存在しないのです
モノを きざんで 混(ま)ぜて 熱して 別のモノにする……
こういう概念(がいねん)が存在しないのです…………
だから 料理や お菓子の味は いつも同じ……
レシピと素材があれば
誰でも 同じモノが作れるのです……

ただ合成にも ある程度 才能や素質は必要なのですが………「う〜ん……
よく わからないけど
ナナの作るモノは
おいしいよ」




「あ…ありがとです……

さな…さま………」



「ニャニャ…

お茶の用意を 頼(たの)むにゃ……

それと ……すもも は水浴びしてから来ると いいにゃ…」



「…こ……こ……
…この……
バカ魔物〜〜〜!!」



自分が汗だくなのに気づいた すもも は顔を真っ赤にして 怒(おこ)ります



「ワタシ達は先に行ってるにゃ……」



「すもも〜
さき 行ってるね〜」



(……ももか の……バカ………
魔物なんかと仲良くして………)



……………………



水浴びを終え ラフな服装に着替えた すもも が濡(ぬ)れた髪を拭きながら戻って来ました………



「す…すもも さま……

こちら…です……」



メイドのナナが 喫茶コーナーへ 案内します…

コーナーの端(はし)
レンガのブロックを組み合わせた台の上に アフタヌーンティーセット カットフルーツの盛り合わせを置いてあり
近くには アルコール・コンロに載(の)せたヤカンが すでに湯気を上(あ)げていました…

ティーポット ティーカップ カップソーサー…
取り皿にフォーク…等々
が 並(なら)べられ
お湯が注(そそ)がれるのを待っています………


絨毯(チェックのカーペット)の上には 椅子が4角(よすみ)に並べられ すでに三人は着席して 談笑しているようです……


…………………



「……それでねぇ

この国の王さま

すっごい チャラいんだ〜」


「そうかな〜?

この国のヒトたちからは
したわれていると思うんだけどな〜」



「……あぁ見えて人格者にゃ…」



「……うん

それでね………

…………



…………………



そこに メイドのナナに
連(つ)れられて すもも が入って来ました……



(……ももか

魔物と楽しそうに話して……)



…………


ももか と すもも は雪に閉ざされた険しい山中に造られた“シュリンガー公国”の出身でした…………

この国の国民は たいそう魔物を嫌っていました……
交易路は 魔物が出没し
襲(おそ)われる人々も少なくありません……

そのため 公国に入ってくる品々は少なく 値段も高いのです………

“自分たちが貧しいのは
魔物のせいだ!”

“魔物は見境(みさかい)なく人を襲(おそ)う!”

“人と魔物は共存(きょうぞん)できない!”

“魔物は滅(ほろ)ぼすべきだ!”

そう考える人々が多いのも 仕方ないのかもしれません………


公国(シュリンガー)の民(たみ)たちは“成人の儀”を迎(むか)えると冒険者となって国を出て
魔物退治に就くことが義務づけられています……これは連邦(アブル)も同じなのです…………


“魔物を倒(たお)さなければ 自分たちが滅(ほろ)ぼされる……”

そう考える冒険者が ほとんどなのです

だから 人と魔物が共存する共和国(マーロ)は すもも にとって理解(りかい)しがたいのです

ましてや 公国(シュリンガー)出身の相方(パートナー) ももか や さな が魔物とも仲良くしていることが
すもも には解(わから)ないのでした………


………………………



絨毯(チェックのカーペット)の上
四隅(よすみ)に 背もたれ付き椅子(いす)が向かい合わせにが置かれ

すもも は 正面に ももか が座っている椅子(いす)の向かいに着席(つ)くよう
メイドのナナに案内されました

さな の正面には ベルにゃん が座っています……



「ニャニャ…すもも に お茶(ピンクティー)をにゃ…」



「か…かしこまりました……」



温められたティーポットに 茶葉が入(はい)り ヤカンの お湯が注がれます

ティーポットの中で 開いた茶葉が踊(おど)り 甘い香りが 微(かす)かに漂(ただよ)わせ始めました……

すでに温められた白いティーカップに 薄い桃色(ローズピンク)が満(み)たされ 甘い香りが 一気(いっき)に広(ひろ)がりました………



「!?……

これは! 発明家エージンの!!」



「にゃ?

ピンクティー(それ)は 万田(マンダ)から もらった物にゃ

エージン とは 誰にゃ?」



「それね すごく めずらしい物なんだよ〜

わたしの レシピ帳 にも まだないんだ〜

すもも は 持ってるの?」


「いえ……まだ 持ってないわ……

それと……

エージン の事は 魔物には関係ない…」



すもも と ももか は以前
南側の“国境沿い”で暮らす “発明家エージン”と会い お茶とお菓子をご馳走され(いただい)た事があるのです
その時 出された お茶がエージンの考案した“ピンクティー”でした

ベルにゃん と さな は
エージンと会ったことは
ありません

ピンクティーを エージンが考案したことも
もちろん 知りませんでした……


発明家エージンは
ピンクティーの作り方を
独自に考案しましたが
レシピには残しませんでした………

レシピをめぐって争いが起こる事を恐(おそ)れたのかもしれません…………



「ベルにゃん
万田(マンダ)ってだれなの〜 (*^-^*)」



切り分けられた ケーキの載(の)った小皿を メイドのナナから ももか は受け取り 質問し(きき)ます



「なぜ……ピンクティーを?」



受け取った ピンクティーを ひとくち飲むと

すもも も問(と)いかけました………



「……連邦(アブル)の“炎の洞窟”
そこに住む 魔物にゃ…

会いに行くと 何か もらえるのにゃ…」



「サラマンダの
サラ・万田(マンダ)さん……

ときどき 会いに行くんだ〜

ひとり暮らし してるから
行くと スッゴく喜んでくれるんだよ♪」



「あ〜
いちばん奥(おく)の宝物庫(たからべや)の……」



ももか は思いだしたようです



「魔物が……喜ぶ?

………バカみたい……」



すもも にとって魔物は
討伐(たお)すべき相手(モノ)です
相手が話しかけてきても まともに会話などしたことはありませんでした…

すもも の言葉に
魔物である ベルにゃん のしっぽがピクリと動きました……



「すもも〜

このケーキ おいしいよ〜」


「ももか…
ケーキなら わたしの合成で……」



「すもも…さま

こちらを……どうぞ……です」



メイドのナナが ケーキの載(の)った小皿を すもも に勧(すす)めます



「すもも も食べてみてよ〜
すごく おいしいんだから〜

ん〜

おいしい〜〜
("⌒∇⌒")」



しあわせそうな顔をして
食べる ももか を見て

すもも は メイドのナナからケーキを受け取り
空(あ)いたたティーカップを
ナナに返します……


「じゃあ ひとくちだけ……」



と 口にフォークを運びました………



「………!!


ナニこれ!!

おいしい〜〜」



すもも の顔が ほころびます…



「でしょ!

紅茶も おいしいよ〜」



メイドのナナに お茶のお代わりを 煎(い)れてもらった ももか が
その手に白いティーカップに注(そそ)がれた 赤みがかった琥珀(こはく)色の紅茶を飲んでいます

ももか のケーキの載った小皿は
テーブル代わりのブロックの上に置いてありました



「すもも…さま も

いかが…ですか?」



ティーポットとティーカップを手に メイドのナナが
座っている すもも の隣(となり)に立ち 聞いてきました


「……いただくわ」



返事を返す すもも に メイドのナナ は ティーカップに慣(な)れた手つきで ティーポットから 紅茶を注ぎます

ティーカップから 紅茶の香りが 広がりました……


「…すもも…さま

…………どうぞ…」



「ありがと……」



メイドのナナから
すもも はソーサーに載(の)ったティーカップ を受け取り ひとくち 口に含(ふく)みます………



「ん〜〜」



くちのなかに 紅茶の香りが広がりました………



「おいしい………」



すもも の顔に笑みが浮かびました………



「気に入って もらえたようにゃ……」



ベルにゃん も 紅茶の お代わりを メイドのナナに注(つ)いでもらっています…


「べ…別に……魔物の出す
紅茶がおいしいかった…わけじゃないし……」



すもも は思わず ベルにゃん から顔をそむけます………………



「………それでね〜
共和国(マーロ)の
魔物神父がね〜…………」


……………………………


5人は しばらく談笑(だんしょう)を続(つづ)けます


……………………



「ご主人さま……
日が 傾(かたむ)いて きました………

今夜は どう……されます?」



いつの間にか
ベルにゃん の側(そば)に
メイドのナナが 近づき囁(ささや)きます……



「……にゃ

そんにゃ時刻(こく)かにゃ…………


………………


ももか すもも

きょうは 泊(と)まって
いっては どうかにゃ?」



「えっ?

ベルにゃん いいの?」



「ももか たちが泊まって
くれると わたしも うれしい♪」



ももか と さな は賛成のようです



「…こ…の…
バカ魔物〜〜〜!!

こんな……屋根も……壁も
ないところに わたしの ももか を
泊める つもり〜〜〜!!

わたしは 反対だからね!」



すもも は反対みたいです


「にゃ……

“ベルにゃんとさなのへや”(ここ)に 泊まるには
この季節
夜は 冷えるにゃ……

となりの山道を登ったさきに
小さな屋敷(いえ)が あるのにゃ……


そちらに案内(あんない)するにゃ………」



「……魔物の住み処(すみか)でしょ

家(やしき)とは名ばかりのの 物置小屋 なんじゃないの?」



すもも が 訝(いぶか)しみます



「ちゃんと 屋根も壁も あるにゃ……

暖炉(だんろ)も あるから
寒くは ないにゃ」



「そうだよ〜

とっても いい家(ところ)だよ

庭には サクラも植えてあって キレイなんだ〜」



「えっ!?

サクラ!!

見たい 見たい〜!!
(* ̄∇ ̄*)ノ」



さな の説明に ももか が
はしゃぎます



「……ももか は 本当に サクラが好きなんだから……

…………わかった

案内してよ 魔物……」



すもも も 行く気になったようです………



「にゃにゃ………

聞いての通りにゃ

4人 お泊まりで頼(たの)めるかにゃ?」



「か…かしこまりました

で……では さきに行って
ご用意します……」



紫(むらさき)と白に塗りわけられた
傘(パラソル)を開くと
メイドのナナは 空に舞(ま)い上がり そのまま“山頂へ続く道”の頂上へ消えて行(ゆ)きました…………



「ナナ〜〜
お願いね〜〜〜」



さな が手を振(ふ)って
メイドのナナを 見送ります……



「ちょ…ちょっと さな!!
何あれ……
ひとが飛んでるじゃない?!」



「ベルにゃん 何あれ〜

ヾ(゜0゜*)ノ?」



すもも と ももか は驚きです



「あ あれは……」



さな が言葉につまります


「……あの傘は マウントにゃ

失われた古代錬金術の一つにゃ……」



………空中浮遊(飛べるの)は ナナが 自動人形(オートマータ)だからでした
傘がマウントというのは
ベルにゃんのウソです
自動人形である事は ベルにゃん達以外の他人には隠(かく)しているからのことでした………



「そろそろ ワタシ達も出発するにゃ

太陽(ひ)が落ちるまえに
頂上に着くにゃ」



「そうだね はやく
出発しよ?」



「わかった 話の続きは ベルにゃん の家で しよ

ね〜 すもも」



「だから ももか〜
わたしは 魔物とは 話したくないって…」



“ベルにゃんとさなのへや”の 喫茶コーナーとは反対側に“山頂へ続く道”への出入り口が あります
そこへ向かって4人は おしゃべりしながら移動します
小さな舞台(ステージ)の前を通り つきあたりの角(かど)に植えられたリンゴの木を
右に曲がると左手に 草のブロックと石のブロックを組み合わせた出入り口がありました………

ここから“山頂へ続く道”へ入ることができるのです


ベルにゃん を先頭に4人は門をくぐりました………


魔物のベルにゃん そのいち… お正月 〜前編〜 おわり

ある冒険者のひとりごと……25 ボンド再び…

……………




彼から受け継いだボンドを抜けて 数ヶ月が過ぎていた……


パートナーと二人で 肝試し お月見 ハロウィン とイベントを共に過ごし

いつの間にかアニバーサリーイベント準備期間を迎(むか)え その準備も終わろうとしていた……



「今年も ここにキミと来ることができたね…」



桃色(ピンク)と白で統一したセレモニアウェア上下を纏(まと)った
パートナーが会場の円形ホール内を見渡(みわた)して
感慨深(かんがいぶか)げに呟(つぶや)く



「……あぁ

今年は ふたり寂(さび)しく 壁の花になりそうだな…」



赤色と黒で纏(まと)められたセレモニアウェアで着飾(きかざ)ったワタシも この会場内を見渡す…

このアニバーサリードレスは去年のイベントで手に入れたものだ 赤 青 ピンク水色の4色全(すべ)てドレッサーに入れてある



「もぅ! キミは
すぐ そういうこと……


あっ!!

ケーキも去年のままだぁ!!」



大ホールの奥 少し高くなった壇上(だんじょう)に
巨大なケーキを模(も)したオブジェが昨年と同じく鎮座(ちんざ)し
パートナーはその元に駆け出してゆく…
ワタシもパートナーの後(あと)につづく……

準備中の会場内は去年と同じまま ケーキの上に飾り付けられた文字は“一周年おめでとう”と書かれている……
去年のあの時まま時が止まっているかのようだ……

……そういえば 去年は前のボンドメンバーと
訪れていたな……


旧メンバーと顔を合わるのが怖い……
ワタシはリーダーとしての責務(せきむ)を放棄し逃げた様なものだから………
もし鉢合(はちあ)わせたら
どんな顔をすればいいのだろう………


………わからない


答えの出ないまま時は過ぎ
会場を訪れるのが遅くなっていた……………



「ねぇ キミ……

新しくボンドに 入(はい)らない?…」



ケーキの足元に置かれた
掲示板

そこには 冒険者のメッセージ  ボンドメンバー募集のページがある
そこを閲覧(えつらん)しながらのパートナーの声だった……



「…………しかし

……また


ワタシは…………」



パートナーの誘(さそ)いに
つい しり込みしてしまう……
ワタシの不用意な発言で
メンバーに

不愉快な思いを させてしまうのではないか

あの時のように………


つい そう思ってしまうのだ…



「……まだ 気にしてる……」



パートナーは くるりと振り返った・・・
紺碧色(ディープブルー)の瞳がワタシを見上げてくる

彼女の白灰色の髪に刺した簪(かんざし)の小さな金魚

それが小さく揺(ゆ)れていた
水色の珠(たま)と小さな赤い金魚・・・

パートナーとワタシを表(あらわ)しているようだった……



「だいじょうぶ
もう一度 やり直せるよ

キミなら……」



パートナーが励(はげ)ましてくる

期待してくれているパートナー…

彼女を失望させたくない



ワタシは…………




「……そうだな

もう一度………

……やって……みるか…」



「うん

こんどは うまくやれるよ!」


パートナーの声が背中を押してくれる……

今度(こんど)は気を付けよう………

あの苦(にが)い思いは ワタシだけでなく
多かれ少なかれボンドメンバー全員が味わってしまうだろうから……



「それで……

どこに入ろうか?」



「……そう……だな……」



ワタシもパートナーと並(なら)んで 掲示板を覗(のぞ)き込む……

様々(さまざま)な ボンド名があり 簡単な紹介文が添(そ)えられてある


さて……どこに入るか……

……………

ボンド募集の更新するなかで ひとつのボンドが目にとまった


“旅する猫”

そう書かれている……



「ん?

ここ?…」



パートナーもワタシの暗緑色(ダークグリーン)の瞳が見ているモノ(ボンド名)に気付く……



「……名前が気に入った

ここにしよう……」



「…旅する猫かぁ

なんだか かわいい響(ひび)きだね

これって わたしたちみたいな感じがするよ♪」



「……ひと所(ところ)に留(とど)まれない 我々冒険者を上手(うま)く表(あらわ)しているな……」



ワタシ達は感想を述べ合う……………



「じゃあ このボンドに申請するよ…」



「……あぁ

頼(たの)む………」



ワタシ達は ボンド“旅する猫”に入会申請をした



そして………

数日が過ぎ

ワタシ達は準備の整った
アニバーサリーパーティー会場に訪れてみると
そこは すっかり様変(さまが)わりしていた……

会場内は大音量で音楽(Dance Storm)が鳴り響き
色とりどりの光が会場内を染め上げている……

窓から射していた明るくやわらかい光も今は夜の闇に包まれ
逆に会場内のカクテルライトの派手な光が漏(も)れ出し
賭博場(グレビィ・アムジェン)も かくやという不夜城ぶりである……



「すごい……

ここが あの会場?」



セレモニアウェア(ピンク)上衣とチェリーローズドロワー下衣
頭にはフェアリーゴシックのリボン 全てをピンクで揃(そろ)えたパートナーが驚きの声をあげる…



「……こいつは……

驚いた…

本当に 同じ場所……なのか?」



ワタシもセレモニアウェア(青)の上衣とリンドウローズドロワー下衣
ブルーバタフライで後ろ髪をまとめて ブルーローズクラウンを頭に載(の)せ
青で全身を着飾(きかざ)ていた

ワタシ達は最近手に入れた下衣にあわせて コーディネートしてからの会場入りだった……



「びっくりした〜
同じ場所でも
こんなに かわるんだね〜
…………………

ところで……

キミ

ボンドから返事きた?」



少し落ち着いた
パートナーがボンド入会の件(けん)を聞いてきた……



「……あぁ

入会の許可が降りたみたいだ…」



ワタシは ボンドの項目(こうもく)を確認してパートナーに結果を伝える……



「ふぅ〜ん……

30人って
ところかぁ〜
けっこう多いね…」



ワタシ達は
ボンドメンバーリストに目を通していると 見知った名前を見つけた……



「あれ?
これって あのひとじゃない?
2月くらいに“滅びの村”で出会った…」



「……たしか 空色(パステルブルー)の髪に白いシルクハットを被(かぶ)っていた……彼か……

…いや まさか………

同名別人じゃ……」



この世界には同名の別人が多数存在する……
ワタシもパートナーと同名の人物を見かけた事もある……
その姿は まったく違っていたが……

しかし メンバーリストの名前が
もしワタシ達が知る人物なら……

偶然をもたらす神は存在(い)るのかも知れない
それも 気まぐれな………


ワタシはボンド掲示板に
入会の礼(おれい)を書き込み
メッセージを白チャからボンドチャットに切り替えるこの世界の何処(どこ)に居(い)ても ボンドメンバー同志(どうし)なら メッセージを やり取りできる
便利な機能だ……


…:「……みなさん こんにちわ…」


とりあえず 挨拶(あいさつ)してみる……



…:「こんにちは」

…:「こんにちは、はじめまして」


…:「こんにちは、よろしくです」



次々と挨拶が反応(かえ)ってくる……



「……ちゃんと反応があるな…」



「いいところだね

ここならきっと

キミも やっていけるんじゃないかな?」



「……そうだな
しばらく所属してみるか…」



…:「……しばらく ご厄介(やっかい)になると思う
皆(みな)ヨロシク頼む…」

掲示板に書き込む



…:「お試しで入った方ですね。
ゆっくりしていってください。」



このボンドのリーダーから返事(メッセージ)が書き込まれる


…:「何か、わからないことがあれば相談にのります。」



「へぇ〜……
新しく入ったメンバーのこと
気にかけてくれるんだ」



ボンド掲示板を一緒に見てパートナーが感心している

…:「……ありがとう
その時は お願いする…」



ワタシはリーダーに返事を書き込む



…:「こんにちは お久しぶりです」



パートナーと話していた人物の書き込みだ



…:「……あ
あぁ……久しぶりだな…」

ワタシを知っているということは同じボンドに所属していたということ……

つまり

ワタシが まだボンドリーダーだった頃 体験入会した事もある 彼だ!

なんとゆう偶然だろう
ワタシのボンドから脱退した後 彼とは一度も会った事はないのに……



…:「こちらに、入ったんですね、ビックリです」



…:「……まさか キミがいるとは………ワタシも驚いている……」



…:「また、よろしくお願いします」



…:「……あ あぁ…こちらこそヨロシク……」



…:「…………

…:「………………

…:「……………………



それから次々と書き込まれる あいさつに挨拶を書き込み交(か)わし
ひと段落(だんらく)ついた
………………




「本当に あのひとだったね
すごい ぐうぜん…」



「……あぁ

そうだな……」



パートナーもワタシも驚きを隠せない…



「なんだか ふしぎな所(ボンド)にはいちゃたのかも……」



「……偶然(ぐうぜん)は二度もないと思うが……」



しかし……以前にも失踪したボンマスと偶然 会った事もある……
ワタシは神を信じていないが
偶然の神は存在(い)るのでは?
と思う事がある

だから二度目が無いとは言い切れない…………



「どうする?

このボンドで いいの?」



パートナーが紺碧色(ディープブルー)の瞳(ひとみ)でワタシを見上げている…



「……そうだな

しばらく このボンドに留(とど)まろうと思う……」



ワタシも暗緑色(ダークグリーン)の瞳をパートナーに向ける……



「じゃあ このボンドに決まりだね♪」



パートナーの声が弾(はず)む……

ワタシはパートナーの喜ぶ声を聞きながら このボンドに しばらく席を置くことにした…………




ある冒険者のひとりごと……26 ボンド再び ーおわりー

ある冒険者のひとりごと…24…魔物ちゃんの交換品−後編ー

…………



ワタシ達は ”マーロ共和国”を出て”実り多き半島”に入った……

ワタシとパートナーと店主のリズの三人で”マウントの笛”の効果を試す為である………
……共和国内では笛の効果は現れなかった……
町の中では”マウント”は呼び出せない事がわかったからである……



“実り多き半島”……
ここには 巨大な水車が ところどころに
存在(あ)る……

仕組みは解(わか)らないが回転する事で今でも 地下から水を汲(く)み上げつづけている……

しかし 直(なお)せる者も跡絶(とだ)えたのか そのほとんどは軸受けから水車が外(はず)れ 崩(くず)れたまま 修復(メンテナンス)もされず その表面(ひょうめん)は苔(こけ)むし 朽(く)ちるに任(まか)せていた…
その水車の足元 湧(わ)き出していた地下からの水も既(すで)に途絶(とだ)えて久(ひさ)しい……
その周(まわ)りには草が生い茂(おいしげ)り 時おり“ハーブ”が採集出来る場所もある……

いまでは わずか数台が動いているのみである………


南国の強い日差しのなか どこまでも青い空に 力強く白い入道雲がモクモクと立ち上がり ゆっくりと流れてゆく………

この半島は南北を遠浅(とおあさ)の海に囲まれ 釣りもできた…

ここではヒラメ(ビーチフラウンダー)がよく釣れた………

他にも“アオバカツオ”や“トコナツ・クマノミ”が釣れるのだ……

もう一ヶ所の釣り場では
トビウオ(フライングフィッシュ)や“クーロクロマグロ”“メガロシャーク”が釣れる……

……釣りをして過ごすのもよいが 今回ワタシ達は
“マウント”について“実り多き半島”に足を踏み入れたのだった……


………………


人々が踏み固めた通り道から少(すこ)し外(はず)れると 茂(しげ)る草が踝(くるぶし)を隠すほど伸びている…



「ここらへんで いいじゃない?……」



共和国服(青)の上下を着たパートナーが辺(あた)りを見回(みまわ)している…



「そう…ですね〜
魔物も近くに いないみたいですし……」



黄色い女給(ウェイトレス)服を着た 店主のリズが あいずちをうつ……



「……そうだな
近くに
“トレント”や“アラビーヌ”の姿は 見えないな……」



共和国服(赤)上下を身に着けたワタシも周囲(まわり)を見渡(みわた)す…


遠くに老人の顔をした
動き回る大木が見える……
“トレント”と呼ばれる魔物だ…
身体が木だから火に弱いと考えがちだが…“水属性”なので弱点(ウィークポイント)は“土属性”の武器や魔法が効果的なのである…
属性の相克(そうこく)を覚える為 ワタシなりに水は土に塞(せ)き止められる…
と考(かんが)えた……

川の水は土で堤防(ていぼう)を作り
溢(あふ)れることを防(ふせ)ぐからだ……


頭に赤いターバンを巻いた 茶色い毛並みをした二本足で歩くイヌも見える……
カトンのジツを使う“アラビーヌ”と呼ばれる魔物だ……

この魔物は“土属性”なので“風属性”で攻撃するといい……

ワタシは土塊(つちくれ)は風に吹き飛ばされ粉々(こなごな)になる…
と覚える事にしている……


「………キミ!!

…………………

また 考えごと?……」



パートナーの声に
ワタシは我(われ)にかえる………


つい考えごとに耽(ふけ)ってしまった……


「……あぁ すまない

“マウントの笛”

試(ため)してみるか……」


ワタシは
海から吹く風に 濃い緑色の髪と公国服(黄)の右側に長く伸びた裾(すそ)をなびかせつつ
パートナーの問いに答えた……



「はやく〜

やってみようよ〜」


「おねがい しま〜す」


ふたりに せっつかれ ワタシは先(ま)ず”熊車の明笛”を吹いてみた……



……………………



「あっ!!」



パートナーの声にワタシは振り返る(ふりかえる)……
目前(もくぜん)にワタシの背丈ほどもあるだろうか?
丸い顔を持つ…白い…四つ足の物体がゆっくりと出現(あらわ)れた………



「これが…

アニマル…カー?……」


パートナーが息をのむ……


「……思ったより

大きいな………」



初めて見る物体に
ワタシも驚(おどろ)きと興味(きょうみ)を持って
しげしげと眺(なが)める…


「それは……シロクマ…を模(も)したモノらしいです…」



マウントに関(かん)する記述(きじゅつ)のある羊皮紙を片手に 店主のリズが説明(せつめい)する………



「……確(たし)かに 生き物(いきもの)を模倣(モデル)したモノらしいな…
見たところ
呼吸(いき)はしていないし体表も硬い……」



「ほんとだ〜

ぜんぜん うごかないね〜」


ワタシ達は“アニマルカー”を見て回りながら触(さわ)ってみたり 覗(のぞ)きこんだりした……



「……えっと 背中(せなか)に乗(の)って……

操作(そうさ)する みたいで〜す」



店主のリズが説明してくれる……



「背中(せなか)って
あの青い布が巻(ま)いてある ところ?」



「そうで〜す
そこに……座(すわ)って……
進(すす)みたい 止(と)まりたい… 右(みぎ)へ行(い)きたい 左(ひだり)へ行きたい……
と思うだけで いいみたいで〜す」



「へ〜
かんたんそうだね♪」



「……なるほど
魂(たましい)の繋(つな)がり……とは そういう事か………」



店主のリズの説明(せつめい)を聞き ワタシは納得(なっとく)する



「えっと…たましいの 接続(つながり)が無(な)いと うごかないってこと?」



「そういうことで〜す」



ワタシ達は ひととおり“アニマルカー”を調べた……

………………



「ねぇ きみ

乗(の)ってみようよ?」



「……そうだな…」



パートナーの声に ワタシは“アニマルカー”の背に手を伸(の)ばした……

……………

…………………



「……困(こま)ったな
背中に乗(の)ろうにも
手が届(とど)かない……」


いろいろ試(ため)すが
背の低いワタシでは
どうも上手(うま)く
いかない……


「わたしも 届かないよ〜」


ピョンピョンと

パートナーが跳躍(ジャンプ)するが “アニマルカー”の背に 手が届(とど)かない……

彼女(パートナー)は
ワタシより さらに
背が低いのだ………



ワタシ達の様子(ようす)を見て 店主のリズが何か気づき声をかける……



「……!!



2人とも!

強く 心に思ってくださ〜い!
背中に乗りたいって!!」



「………!!
そうか!」



「そうだよ!

魂(たましい)のつながりだよ!!

やってみよ?」



ワタシ達は気づいた……
マウントにとって必要なのは “乗りたい” という
強い気持ちだということに……



……ワタシは目を閉じ
初めて “熊車の明笛”を吹いた時のことを 思い出してみた……

……暗やみのなか 丸く白いモノが見えた……

そうか!

あれは“アニマルカー”の顔だ!!

さっきまで 見て 触って いた “アニマルカー”の全体を思い出す……

まだ乗った事がないが
その背に座るワタシ達を
強く想像(イメージ)する
…………

ワタシとパートナーは
目を閉じたまま
強くお互いの手を握った…


「「騎乗(マウント)!!」」



ふたり同時に叫ぶ!!



目の前のワタシ達に とっては大きな白い物体(アニマルカー)が消え

次の瞬間

ワタシ達の視界が高くなった……


「……!!」



「あっ!」



パートナーの驚きの声……


「成功で〜す」



足元から店主のリズの声が聞こえる……

ワタシ達は“アニマルカー”の背に横座りしていた……



「たか〜い!!」



ワタシの後ろでパートナーの はしゃぐ声が聞こえる
高い位置から見る景色は
いつもと違って見えた……



「………

動かしてみて くださ〜い」


下の方で 店主のリズが手をふっている…


ワタシは “アニマルカー”の首もとから伸(の)びる丸い金属の輪(ハンドル)を
両手で掴(つか)む

ここを握(にぎ)っていれば振(ふ)り落(お)とされる
事はないだろう……



「……行くか」



緊張(きんちょう)の為(ため)か
声に力が入る……



「いつでも いいよ♪」



ワタシの腰(こし)に その右手を絡(から)め
左手は“アニマルカー”の背に置(お)いて
パートナーが声をかける…

その声に ワタシの緊張(きんちょう)が緩(ゆる)んだ……
彼女がパートナーで よかった……
心にわき上がってくる
不安(ふあん)も恐(おそ)れも彼女(パートナー)の顔を見(み) 声を聞くだけで
たちまち霧散(むさん)してゆく……


…………………


心(こころ)が落ち着いたところで ワタシは深く息を吸い ゆっくりと…はきだす……
手元(てもと)の金属の輪(ハンドル)を軽く握(にぎ)り自分が前へ歩く様子(さま)を想像(イメージ)してみた………



!!………



「うごいた!!

やったよ キミ!」



嬉(うれ)しそうな声が後ろから聞こえる…

身体(からだ)に伝(つた)わる衝撃(しょうげき)もなく
すべらかに“アニマルカー”は前へ進む…
下を見ると
胴体(どうたい)に接続(せつぞく)された軸(じく)を中心に脚(あし)を前後に動かしいるのが見えた…
しかし脚を使って歩いているわけではないようだ

左右(さゆう)にも思ったとおりに進む

しばらく動かしてみて
後ろには進まない事がわかった…
後方(こうほう)へは
クルリと後ろを向き前へ進むのだ……

“実り多き半島”をしばらく進んでみる…

……確(たし)かに速(はや)い
普段(ふだん)ワタシ達が
走って移動するより速いのだ
しかも座(すわ)ったままである……



「あっ キミ!

あそこに“銅鉱石”があるよ!!」



パートナーが指差(ゆびさ)す……



「……あれか……」



ワタシも落ちている銅鉱石(アイテム)に気づいた…



「キミ! もっと近づけて…」


「……わかった
そばに 寄(よ)せよう……」


“アニマルカー”を
アイテムの傍(かたわ)らにに近付(ちかづ)ける……

……と



「えっ?」



「……?」



パートナーの手に“銅鉱石”が あった……



「…これって

どういうこと?」



「…………

降(お)りなくても
アイテムが採取(さいしゅ)できるらしいな……

……しかし

どういう仕組(しく)みなのか……」



「キミでも わかないこと
あるんだ……」



「……色々 考えられるが
これだとは 言いきれないな……

……………

……ワタシは 解(わか)らないことを理解(わか)りたい……
その為(ため)に旅を続けているんだと思う……」



「ふ〜ん
わたしには よくわかないけど…
キミは キミの思うとおりにすれば いいんじゃないかな……

わたしは わたしの思うとおりにしか できないけど………」



「………あぁ

そうだな……」



「うん
そうだよ!」



ニッコリと笑う
屈託(くったく)のない
パートナーの笑顔

普段(ふだん)は仏頂面(ぶっちょうづら)なワタシだが
その頬(ほほ)が自然(しぜん)と緩(ゆる)むのを感(かん)じた…………



……………………………



ワタシ達は “実り多き半島”を“アニマルカー”で しばらく走り回った後(のち)
店主リズの前に戻(もど)ってきた……



「どうでしたか〜?

気づいたことや
感(かん)じたことを何(なん)でも
いいですから
教(おし)えてくださ〜い」


店主リズの声に ワタシ達は騎乗(マウント)を解除する
アニマルカーは 揺(ゆ)らぐ景色(けしき)の向こうへ入って行(い)くと
完全(かんぜん)に見えなくなった………



「………そうだな

足元が見えにくいのが
難(なん)…かな……」



「いどう中(ちゅう) 暑(あつ)かったかな?」



「……それと
横座(よこすわ)りで長距離(ちょうきょり)は腰が痛くなるな………」



ワタシ達は感想を述(の)べあった……



「……なるほど
貴重(きちょう)な ご意見
ありがとうございま〜す


それと コレは お約束の交換品“飛行板のうなり笛”と
賢者の虹晶片50個で〜す

今回の報酬として お渡ししま〜す」



ワタシ達は それらを受け取る…………………



「……余(あま)っていた“銘菓の短笛”との正当な交換だから報酬(ほうしゅう)とは言えないが……

まぁ そういう約束だからな……」



「でも 騎乗(マウント)について いろいろ
おしえてくれたよ?」



「…………………

……そうだな
情報も報酬のひとつだしな
モノばかりが報酬ではないか………」



パートナーの言葉に
ワタシなりに納得(なっとく)する



「納得(なっとく)していただいたところで……

わたしは3国(さんごく)のどこかに いま〜す

ごようのおりは 訪(たず)ねて来てくださ〜い

…他(ほか)のマウントについて気づいたことや感じたことが ありましたら
その時(とき) お話して下さると こちらも助かりま〜す

………………

では わたしは報告書をまとめますので
これで 失礼しま〜す


また お会いしましょ〜……」



店主のリズは ワタシ達に
一礼(いちれい)すると
マーロ共和国の方(ほう)へ歩み去った
無論(むろん)彼女の言(ゆ)う3国とは“マーロ共和国”“アブル連邦”“シュリンガー公国”……の事(こと)である………



「またね〜」



パートナーは 去(さ)り行(ゆ)く リズの背に手を振(ふ)って見送(みおく)った…………



「……ねぇ
これから どうする?」



パートナーの紺碧色(こんぺきいろ)の大きな瞳(ひとみ)が
ワタシの どこか眠たそうな暗緑色(あんりょくしょく)の瞳を覗(のぞ)き込んでいる………



「……そうだな

風の吹くまま……気の向くまま……旅を続けるか……」



「そうだね
それが きみのスタイルだもんね……

わたしは きみと

いつまでも…

どこまでも…

いっしょだよ……」



「………………」



ワタシは 黙(だま)って
店主リズから受け取った

“飛行板のうなり笛”を吹いた……


……………………


軽い衝撃(ショック)と共に視界が高くなる

が“アニマルカー”の時(とき)よりも見える景色(けしき)は低く感じられた……

足元を見ると笹の葉に似た板(ボード)がワタシ達ふたりを載(の)せ 地面より
フワフワと浮いている

ワタシは飛行板(フライングボード)の後ろで両手を軽く広げ バランスを取る……
パートナーは前に座り
前方を見て進むべき方向を
ワタシに指示(ナビゲート)してくれる



「きみは どこへ行きたい?」



パートナーの白灰色の後ろ髪を見つめながらワタシは…………



「……そうだな

どこか静かな所で釣りがしたい…………」



「わかった
この近くで釣りができる
静かな所だね……」



………………



「“石化した村”で
いいかな?」



「……あぁ
道案内(ナビゲーション)を頼む…」



「ちょっと待ってね…」



パートナーは地図を広げ
目的地までの道順を確認している……



「よし!

じゃあ 行くよ♪」



「……あぁ
任(まか)せた…」



気ままに目的地を決めるとワタシ達は出発する

パートナーとの
ふたり旅は いいものだ
お互(たが)い気兼(きが)ねなしに旅ができる……

ボンドを抜(ぬ)けて数ヶ月
ボンドメンバーとの関わりは無くしたが
特に不自由なく日々(ひび)過(す)ごしている

強力な魔物と協力して戦うことは出来なくなったが

それならば戦わなければ良いだけのこと…

ワタシは冒険者には向いていないと思う……
正直(しょうじき)魔物とは戦いたくないとも思っている
しかし この世界の慣習(ならわし)で冒険者となって魔物退治をしなくてはならない……


冒険者は強さを求める…
より強くなって さらに強い魔物退治をするため……
しかし ワタシは強さを求めない 魔物退治も日々の生活のためにしている…

ワタシは この世界の景色が好きだ
だから釣りが好きなのかもしれない……
景色を眺(なが)めながら
何が釣れるか楽しめるから

……景色を堪能(たんのう)し
知識を深める……
そんな日々を過ごしたい………

それが ワタシの願(ねが)いなのかもしれない……



「もうすぐ“石化した村”だよ!」



物思いに耽(ふけ)っているうちに“山と海とビーチ”を抜けて 村の近くまで来てしまったようだ



「ずいぶん早く着いたね

それに ここからは歩きだよ」



「……確(たし)かに
早い到着(とうちゃく)だな………

村の中ではマウントは使えなかったな……」



「うん 人(ひと)とぶつかると相手にケガさせてしまうからね…」



「……あぁ

そうだな
そのとおりだ……」



「ハイボウさんに挨拶しに行こう?
それから あの娘(メアリ)の様子も 見に行って……」


「……そうだな
この村でも 色々あったな……」



この村の石化した人々を
成り行きで助けたり
奴隷少女救出を魔物(オーク紳士)と一緒に手伝ったり……
冒険してきた事を思い出す……


これからもワタシ達の冒険は続くだろう……
冒険が続くかぎり
この記録帳(ひとりごと)も書き続けられると思う…………


ここまでで いったんペンを置くとしよう…………




ある冒険者のひとりごと…24…魔物ちゃんの交換品 ー後編ー 終わり………