…………



この世界は承知(しょうち)のとおり

無のオーブの日
火のオーブの日
水のオーブの日
風のオーブの日
地のオーブの日
全オーブの日 前
全オーブの日 後

と七日それぞれ名前がある……
それぞれ属性に対応しており その日にだけ各属性のオーブと強化剣の迷宮(ダンジョン)に行く事が出来る……

最後の2日だけは 無 火 水 風 地 ……
どの迷宮にも行く事が出来た………

この二日間は 安息日らしく 多くの者が休みを取り
休日を過ごすのが 習(なら)わしとなっている………


…………この二日間の休日のみに開かれる ある興行(イベント)があった

円形闘技場を使って行(おこな)われる

集団戦(チーム対抗戦)……

今回 この戦いに挑(いど)む為 控え室で開始を待つあいだ

ワタシはあの時の事を思い出していた………



………………



……………………



ある時 リズの店に立ち寄る事があった

……以前受けていた依頼……

……騎乗(マウント)についての 事後報告をするために……


店主のリズに店先で
銘菓(マカロン)と飛行板(フライングボード)を使用した時の感想を述べていた時だったな……


……………………



「あれっ?

この染色薬(せんしょくやく)……」


パートナーの声に ワタシは 店主(リズ)との会話を中断(ちゅうだん)し
パートナーの方(ほう)へ
注意を向ける……



「……染色薬が

………どうか したのか?」


染色薬は錬金術の合成で
作ることができる

無論(むろん)レシピを持つパートナーも合成することができた



「見てよ キミ!

この色!!

すごいんだよ!!」



興奮するパートナーの指差す方(ほう)をワタシは見た


「………!!」



そこには透明な小瓶(こびん)に入った色とりどりの
染色薬が並(なら)んでいた


ローズピンク……

ピンク……

茶色……

空色……

水色……

クリーム……

藤色……

エメラルド……

バイオレット……

グレー……


いずれも初めて見る色ばかりだ………



「……店主(リズ)

これは?」



「あぁ それ?

この お店だけで扱(あつか)ってる品よ

珍しいでしょう?」



「ふむ……

確かに………

……………………

…………………………

ところで……染色薬(これら)の レシピ は無いのか?」



店頭に陳列(ならべ)られた
染色薬に興味をひかれ ワタシは店主に聞いてみる

……染色薬は防具たる衣服の色を一部 染め替える事が出来る
それは冒険者にとって 自分を主張する(オシャレの)為の 1つの手段になるからだ……


レシピさえあれば
素材を揃(そろ)えるだけで
染色薬は合成できる……

故(ゆえ)に聞いてみたのだ………



「ないで〜す……

これは 景品ですから〜」



「景品って?
なにと交換するの?」



ワタシも感じた 疑問をパートナーか すかさず質問する



「集団戦(チーム対抗戦)って知ってます?」



「週末に やってるアレ?」



「そう 参加するだけで
賞金1500Zellと戦績証5個をもらえま〜す
さらに自軍が勝つと倍なんですよ〜」



「つまり……その集団戦で得られる戦績証と染色薬は交換……
というわけか………」



この店に置いてある 染色薬…それを手にするには 集団戦に参加するしかないらしい………



「戦績証と交換できるアイテムは他にも ありま〜す
たとえば エステで使えるヘアカタログとか どうです?
美豆良(みずら)とドレッドがありますよ〜

そちらの冒険者さんの褐色の肌にドレッドヘア…
似合うと思うんですけど〜?」



「え〜
どうだろう?」



パートナーが その顔に苦笑いを浮かべる



「いや……ワタシは このままでいい………」



………ワタシは エステはしたことは無いし これからもパートナー共々しないことだろう………




「あっ そういえば
染色薬1個は 戦績証5個 と交換で〜す」



「なるほど集団戦に1回参加すれば 染色薬が1個……手に入るわけか………」


「ちなみに 集団戦にはパートナーは参加できない決まりになってま〜す
冒険者さん同士で仲良く
魔物を倒してきてくださ〜い」



………………



1試合は15分ほど 2時間ほどの開催だから1日8試合
Zellなら 12,000〜24,000
戦績証は 40〜80…くらいは稼(かせ)げる……か…

しかし そう上手(うま)くはいかないのが 世の常(よのつね)である

参加者が規定数(きていすう) 集まらなければ試合は始まらない……

参加者が集まるまで
長らく待たされることもある………

常(つね)に1日 8試合参加できるわけではなかった……


……………

…………………

………………………

あれから週末は 参加できるときは集団戦に参加するようになり
交換用の戦績証も だいぶ在庫(ストック)できた………
必要な染色薬(いろ)が 何時(いつ)でも手に入るようになり 今は賞金目的でチーム対抗戦に参加している
何しろ インフレ化する武装の強化にZellは必要だからだ………


…………………

……………………



そして
ワタシは今週末も
チーム対抗戦参加者控室(ココ)にいた……

参加者同士が狭い控室内で 試合開始の僅(わずか)かな時間を 思い思いに過ごす

”いいね”を しあったり
”よろしく”と挨拶を交わしあう

装備やスキルの確認も ここでするのだ……

試合がはじまったらスキルは交換できるが装備の変更は出来ない……
装備の確認はしておいたほうがイイ……
でなければ勝てる戦いでも あっさり負けることも あるからだ

ワタシはアバターを
頭にアクセサリー ”荒野(赤)のターバン”…
肩にアクセサリー ”アラビースカーフ”…
上衣 ”共和国服(赤)”…
下衣”共和国服(赤)”…
に着替え 開始を待つ……
初めて集団戦に参加した時 この服装で参加し
途中色々 衣装を変えてみたが 結局は この共和国服に落ち着いた……

最近は 参加人数も減り
今回のチーム戦は
最低数 5人対5人のようだ……
最大は 15人対15人まで参加できるのだが……

今日の魔物の属性は“火”……
防具を“火”属性で揃(そろ)えると受けるダメージが軽減できる……

水属性の武器に 水属性スキルを載(の)せれば相手に与えるダメージは大きくなる……



いま ワタシの職業(ジョブ)は吟遊詩人……
職業修得済み(ジョブマスター)だ

弦楽器(リュート)を演奏(かな)で 味方を強化し 敵を弱体化する スキルが使える……

その為か 物理攻撃より
魔術攻撃を得意とする

ワタシはスキルを攻撃魔術で揃(そろ)え 開始に備(そな)える……


……………3

…………2

………1



……試合開始!!


開始の合図が聞こえると
高い壁に囲(かこ)まれた円形闘技場に ワタシ達は 一斉(いっせい)に雪崩(なだ)れ込む……

制限時間内に魔物に与えたダメージ合計が 相手チームより多ければ勝ちというルール……

故(ゆえ)に 早く倒す必要があるのだ………


赤いゲルミに接触すると……
3体の火属性“コノミ″が待ち受ける……


無属性“エーテルジャベリン″

地属性“ムーンビット″

風属性“フラッシュ″

………………

ワタシは 攻撃魔術(スキル)を発動させ 一撃のもと
1体ずつ確実に倒してゆく……

魔術攻撃 物理攻撃ともに全体攻撃スキルでは一撃で倒せない為 ワタシは3撃で倒す方を選んだ……



開始から5分程(ほど)が過ぎた……


円形闘技場の高い壁に掲(かか)げられた ポイント表示板……

自軍を示す左の青い棒線が 右からの敵を示す赤い棒線を 真ん中で押し留めている……
たがいに一進一退を繰り返していた
今の所 五分五分と いったところか……

……そして残り10分を切ると 大きな"コノミパパ"と呼ばれる個体が 出現する……


小さな“コノミ″3体を相手にするより 大きな“コノミパパ″1体を倒したほうが得られる点数(ポイント)が高い………

ここからは“パパ″を より多く狩ったほうが勝ちだ…………

“ハイオーラ″

“アストラルリング″

と補助魔術(バフスキル)で攻撃力を上げ
ワタシは “コノミパパ″に挑む………


戦闘で使えるスキルは6つ……
ワタシは 攻撃力を一時的に上げる補助魔術2つ
単体攻撃魔術4つを選んでいた……

一次職 二次職とも ほぼマスターしたワタシは徒手空拳(としゅくうけん)でも
“コノミパパ″とじゅうぶん渡り合うことができた……
もっとも 副武装に限界突破を4回した杖(ロッド)を五つ装備する事によって魔術攻撃力を底上げしての事だったが………


……………………


試合も終盤……
残り5分を切る……
“コノミパパ″より強力な
“コノミグランマ″が出現する…………


“グランマ″は 攻撃 防御 ともに桁違いに強い……
数人がかりで各々(おのおの)が高い攻撃力と防御力なければ とても倒せる相手ではない

チーム戦では あるが
各自がバラバラに挑み
偶然 勝利する……

これが このチーム対抗戦なのである……

ボスである “コノミグランマ″が出現しても声を掛け合って挑む者はイナイ…

コノミを狩る者

コノミパパを狩る者

コノミグランマに挑む者

戦績の証を回収する者……

各々(おのおの)が 自由に行動(狩りを)する……
なかには 狩りに参加せず
闘技場内で眺めているだけの者もいる……
だが そういう事を咎(とが)める者はイナイ…… 冒険者の自由意思に委(ゆだ)ねらているからだ………


“グランマ″に挑(いど)むのは 他の冒険者に任(まか)せ ワタシは“コノミパパ″を倒すことに専念する

ワタシの力量では 無理だからだ……

見上げると
闘技場の高い壁……

その上に設けられた階段状の壁に 緑の芝と流れる水……
じつに共和国(マーロ)らしい建築物が見える

そこに掲(かが)げられた
取得点(ポイント)表示板……
青い棒と赤い棒…互いの色を伸ばそうと 押し合いが激しくなっていた……



「……まずいな 敵の攻勢(いきおい)が激しい……

ワタシ達は………

……今回

勝てる……のか?」



取得点(ポイント)を押し返しても
すぐに押し戻される……

つい弱音が 口をついて出てしまった………



「がんばって」



「まけないで」



「できるのなら
今すぐ 加勢したい」



ボンドチャット(青チャ)に次々とメッセージが浮かぶ……

…………ボンドチャットにしたままだったな

そういえば………

ワタシの呟(つぶや)き が
ボンドチャットに書き込まれ 閲覧(えつらん)できるボンドメンバーが 書き込む………

この場に 居(い)なくても
離(はな)れていても

ボンド(きずな)を感じられる………

ワタシは ボンドメンバー(ボンメン)の存在(はげまし)に支(ささ)えられ
もうひと踏(ふ)んばりする事にした………

………………


吟遊詩人の単体攻撃スキル“アルペジオ″
ワタシは弦楽器(リュート)を奏(かな)で 魔術を発動させる

それを鎮魂歌に
何体目かの“コノミパパ″が黒い霧となって消えてゆく………



そして………



壁の得点表示板の時計が
終わりの時を告げた……


……………………


青チーム 赤チーム 互いの合計獲得点(ポイント)が発表され ワタシ達は かろうじて勝てたのだった………




ある冒険者のひとりごと……29 集団戦について〜おわり〜