神々が棲む世界で一際、目立つのが七人だった。光の反射で炎色にも見える髪を、ゆらゆら揺らして…あどけない笑みが絶えなかった。
将来を約束された次期ミカエル。
そんなミカエルを平気で踵落としする麗しきウリエル。
穏やかな光景だと、神々は口を揃えて言っていた。そう、ミカエルの母親が亡くなるまでは…。
「聞いたか、あねの方が魔族の闘争に巻き込まれた人間を助ける為に命を捨てたと…」
「は、馬鹿っ!大きな声で叫ぶな。ミカエル様の耳に入ったら…」
慌てる家臣達を横目に、幼いウリエルは『馬鹿馬鹿しい』と思った。
ミカエルの母親は、穏やかな性格の持ち主で…。常に周りを和ませる女神だった。
魔族との闘いが勃発しても、そこに太陽の花を咲かせる様な人。
人間を助ける事が本望だと言っても過言ではない。
皆が悲しむ理由も解る。だが、一番悲しいのは心から慕っていた母親を亡くしたミカエル自身。
平然を装いながらも、泣くのを我慢している様子は一目瞭然。
『大丈夫だよ。母様が亡くなったて…私は一人で生きていけます…』
馬鹿も休み休みに言って欲しい。
何が大丈夫なものか…。
瞳に沢山、涙を溜めて吐く科白ではないと解れば良いのに。天然な幼なじみなに求めたって、無理だろう。
「ウリエル、大変!」
「…どうしました?ハニエル」
「ミカエルが…」
自分を探しに来たのだろう。
途中、言葉を詰まらせたハニエルは苦い表情を浮かべる。
「ずっと、我慢してたのでしょう。今日ぐらいは…泣かせてあげてもバチは当たりませんよ。まだ、幼い太陽なんです…彼は。強がったって…無意味という意味を理解してないのですから」
「―…まぁ、間違ってはいないんだけど。その、ミカエルが泣いているのはルシファが原因で…」
「はぁ?」
思わぬ発言に間抜けな顔をしたウリエル。
「『俺がソナタの母親の分まつど、沢山愛情を注いでやる。だから、悲しい表情をせず…笑っていて欲しい…。太陽の花みたいな笑顔を絶やさないでくれ!』って、直球な告白を投げたのよ。聞いていたガブリエルは唖然としているし、ラグエルなんか肩を震わせていたのよ?」
「悲しみを背負って、強く生きていこうと覚悟を決めた子に捧げる科白じゃないと思うんですが…」
「…ルシファなりの慰めだとは思うのよ…。ミカエルのお母様は笑顔を絶やさない女神だったから。太陽の如く、燦々と輝いていたから…」
掛ける言葉を明らかに間違えていると心の中で悪態を付きながら、ウリエルは窓の外を見た。
燦々と輝く太陽は雲に隠れ、恵みの雨をもたらしているが…。
唯一、失わず輝いている幼い太陽が雨の雫に打たれ…泣きじゃくっている姿。
あいゆう光景も今日限定なんだろう。
明日になれば、何時も振り撒いている顔へと戻っているに違いない。